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品質が第一、教訓の「弾痕」 40年以上前のカーオーディオ、いわきに展示

09/15 08:10

銃弾で撃ち抜かれたカーオーディオを見つめる石井さん。「初めて見た時は衝撃を受けた」と振り返る=いわき市・アルプスアルパインいわき開発センター

 電子部品大手アルプスアルパイン(東京都)が福島県いわき市に置くいわき開発センターの展示室に、銃弾で撃ち抜かれたカーオーディオが展示されている。40年以上前、米国の法人宛てに顧客から送り付けられた物だ。製品に満足しなかった顧客の怒りを生々しく表す展示物は「品質が第一」というものづくりの原点を同社の技術者に今も伝え続けている。

 40年前の衝撃

 同社によると、アルパイン(2019年に親会社のアルプス電気と統合)は当時、米国で高価格帯のカーオーディオを販売していた。後発ブランドだったが、通常の価格が50~100ドルだった時代、450~500ドルという価格で勝負に出た。ある時、45口径マグナム弾で打ち抜かれたアルパイン製のカーオーディオが会社に送り付けられた。カセットテープを再生する製品だったが、内部でテープがぐちゃぐちゃに絡まり、カセットが取り出せなくなったようだった。

 高い買い物だったのに、突然音楽が聴けなくなった―。担当者は、銃を撃ち込んだ顧客の「無言の抗議」を重く受け止め、教訓にしようと日本に送った。歴代技術者はこの品を見て、品質への思いを新たにしてきた。

 「衝撃だった。一体何があったのかと」。いわき開発センターでカーナビのソフトウエアの開発を担当する石井貴大さん(34)は13年に入社後、初めて展示品を見た時の驚きを振り返る。事情を知り「お客さんにとって高価で大事な物だったのだろう。急に壊れて、怒りは無理もない」と考えるようになり、製品の品質の大切さを心に刻んだ。

 人命への意識

 音楽を聴くだけのカーオーディオとは違い、現在のカーナビはさまざまな機能を備えている。最新の製品には自動運転を補助する機能もあり、石井さんは「われわれが過ちを犯せば最悪、人命に関わる」と自戒を込めて語る。インターネットとの接続も可能となったため、サイバーセキュリティーの観点での対応も求められるようになっている。

 技術者としてより重要な仕事を担うようになるにつれ、展示品が伝える品質最優先という信念への実感は高まっているという。「どんなにすごい機能があっても、品質が低ければ意味がない。その時代に求められる品質を担保できるよう、しっかり対応していきたい」

 展示室には工場見学に来た学生などを案内しているという。硝煙が今にも立ち上ってきそうな生々しいカーオーディオが、品質第一という伝統を今に伝える。(須田絢一) 

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