旧経営陣の行ったことと総括してしまえば、病巣を摘み取ったことにはなるまい。不正を許した要因がどこにあるのかを明確にし、組織を再生させることが急務だ。
いわき信用組合(いわき市)の旧経営陣による10億円超の不正融資が発覚した。2008年7月ごろから11年2月ごろにかけ、当時最大の融資先だった同市の企業に対し、資金繰り支援としてほぼ毎月、旧経営陣とこの企業の家族、親族らの個人口座を介して迂回(うかい)融資を行っていた。既に金融庁に報告しており、行政処分が行われる可能性がある。
同信組によると、この融資先と別の大口融資先も当時、業績不振となっていた。大口融資先企業二つが破綻すれば、同信組の経営も行き詰まるのを危惧し、不正融資を行ったとみられる。
この迂回融資が当時の代表理事4人の合議で決定されていた。経営トップ主導による意図的な不正であり、深刻というほかない。
不正融資が行われた企業は、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故による賠償金や保証金などで業績が回復し、融資は返済されているという。しかし、それは同信組の不正を免責するものではあるまい。地域の中小事業者の資金を預かる金融機関として、到底許されるものではない。
同信組は不正融資と合わせて、14年に元職員による4500万円の横領を旧経営陣が隠蔽(いんぺい)したことや、元職員が09年に金庫から現金20万円を着服していたことも明らかにした。旧経営陣の下で、不正を放置する組織風土がつくられていたとみるべきだろう。
これらの問題が発覚したのは、交流サイトで信組を名指しした「不祥事を隠蔽している」との記事が投稿されたことだった。ただ、取引先からは「発覚前から不正のうわさがあった」などの声が聞かれる。そうした指摘が届いていなかったとすれば金融機関としての情報収集能力を疑わせる。また、こうした声を放置していたのならば、組織として機能不全に陥っていたとの非難は免れない。
同信組は、弁護士などによる第三者委員会を設け、事実関係や類似の問題について調査するとしている。調査に基づき刑事告訴などの対応を検討するという。
中小企業などの資金調達を実情に応じて支援できるのが、地域に密着した信組の役割であり、強みだ。今回の不正は、密着の在り方を誤ったというほかない。信用の回復は、同信組が真摯(しんし)にこれらの不正と向き合い、うみを出し切ることができるかに懸かっている。