2025年が幕を開けた。穏やかな気持ちで新年の目標を立てている人、縁起物のおせち料理や郷土食を前に、際限のない物価高を案じている人がいるだろう。
世界各地で戦火がやまず、不安定な国際情勢がもたらすエネルギー価格の高騰が、私たちの暮らしに暗い影を落としている。デフレ下で長らく停滞していた賃金は上昇しつつあるが、地方の中小企業では人手不足などの問題を引き起こしている。
米大統領に「自国第一主義」のトランプ氏が返り咲き、世界情勢はさらに混迷の度を深める恐れがある。文章や画像を自動で作る生成人工知能(AI)などの技術革新は加速度を増している。政治や経済の変化は目まぐるしい。しかしそれに追い付くのに必死のあまり、大局を見失ってはならない。
それぞれが足元を固め、未来に希望を見いだすことが、この混沌(こんとん)とした時代を切り開いていく確かな力になるはずだ。
本県は、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故からの復興が着実に歩を進めている一方、人口減少や人口流出に起因した複雑な問題が顕在化しつつある。消費や労働力の減少に伴う経済の縮小、医療や交通などの公共サービスの維持、単身世帯の増加と孤立、地域コミュニティーの希薄化などの課題が私たちの生活を大きく変えつつある。
今年は人口の多い団塊世代の全員が75歳以上となる。ちょうど1年前に起きた石川県の能登半島地震は、過疎や超高齢社会の厳しい現実を露呈したが、決して人ごとではない。強い危機感を持ち、対策を急がねばならない。
「日本民俗学の父」の柳田国男は若い頃、農商務省の官僚として全国の農山村を歩き、民間伝承の収集などに傾倒していった。民衆の知恵にこそ貧困にあえぐ農民を救う糸口があると考え、民俗学を「経世済民の学」と定義した。
中国の古典にあり、経済の語源ともなった経世済民は、世を治めて、民の苦しみを救う―との意味である。石破茂首相が昨年、政治家に求められる志として国会で取り上げ、改めて注目された。
どんなに技術革新が進んでも克服が難しい課題はある。少子化や自然災害の脅威などはそうした課題の一つだろう。だからこそ一人一人の英知を集め、議論を重ねて解決の手だてを探り、さまざまな挑戦を始めたり、備えたりすることが重要になる。柳田は今年で生誕150年。時代を超えても、国や政治家は、経世済民の精神を忘れてはならない。