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【1月3日付社説】デフスポーツ振興/共に楽しめる環境づくりを

2025/01/03 07:40

 聴覚に障害のある人が暮らしやすい本県にする。その礎をつくる1年としたい。

 「ろう者の五輪」とも呼ばれる国際総合スポーツ大会「東京デフリンピック」が11月に開かれる。日本では初開催で70~80カ国・地域から約3千人の選手の参加が見込まれている。本県ではJヴィレッジでサッカー競技が行われる。

 「デフ」は英語で「耳が聞こえない」という意味だ。身体、視覚、知的障害が対象のパラリンピックとは別に開かれていることもあって、大会の認知度が低いのが大きな課題となっている。

 県などは、11月に向けて事前イベントや手話講座などを開催しているほか、県内の学校を対象にサッカー競技の観戦を呼びかけている。大会を運営する東京都は、月末まで大会ボランティアを募っている。イベントへの参加やボランティアを通じデフスポーツに触れることで、聴覚障害者について知るきっかけにしてもらいたい。

 全日本ろうあ連盟スポーツ委員会事務局長で、県聴覚障害者情報支援センター所長の山田尚人さんは自身の経験を踏まえて、こう話す。「自身の子どものころは、耳が聞こえないと危険なのではないかと、スポーツクラブなどに参加するにも壁があった。こうした壁は子ども同士というよりも、大人が実情を知らずにつくってしまっているものだろう」

 山田さんの経験したことは、現在も大きく改善されたとは言えない状況だ。耳が聞こえないことで社会参加を妨げられるようでは、共生社会の実現はおぼつかない。

 デフスポーツの陸上競技などでは、号砲と合わせてランプが用いられ、光でスタートのタイミングを伝える。サッカーでは、主審が旗を振ったり手を上げたりして合図をする。これならば、聴覚障害者も健常者も同じルールで競い合うことが可能だ。

 これまでのルールでは対応できないから―と排除してしまうのではなく、聴覚障害者が一緒に楽しめるような仕組みを考えていくことこそが、共生社会実現の第一歩となるのではないか。

 聴覚障害者と健常者が共にスポーツを楽しむ上で欠かせないのは、手話通訳だ。病院の受診などに関しては手話通訳の同行に自治体からの助成が得られる場合があるが、それ以外のケースでは助成が十分とは言い難い面がある。

 デフリンピックの開催を契機として、聴覚障害者の暮らしや生きがいづくりを支えるための仕組みを強化していくことが、行政には求められる。

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