尾瀬の保全と利用の増進に向け、持続可能な仕組みを構築していく必要がある。
本県と群馬、新潟、栃木の4県にまたがる尾瀬国立公園を巡り、木道整備などの財源を確保するため、利用者を対象に入域料の徴収を検討することになった。環境省が近く検討会を発足させる。
尾瀬の入山者数は1996年の65万人をピークに減少傾向が続いており、今年は15万5630人にとどまった。天候や登山者の高齢化のほか、ニホンジカによるニッコウキスゲ、ミズバショウなどの食害で尾瀬の景観が変化してきたことも影響しているとみられる。
一方、植生の保全などのための財源の確保が課題だ。尾瀬国立公園内には湿原の踏み荒らしを防ぐため全長約65キロの木道があり、補修費用は国と地元自治体が負担している。資材をヘリコプターで運ぶため、1メートル当たりの木道の補修に約20万円かかり、毎年、数億円が必要となっている。
国が入山者に行った調査では、尾瀬の現状について「木道・登山道の整備不足」や「自然資源の劣化・変化」を指摘する声が多かった。貴重な生態系を守り、尾瀬の魅力を高めるためにも、木道などの整備を着実に進めていくことが欠かせない。入域料の徴収は数少ない財源確保の手法であり、十分検討に値するものだ。
ただ入域料の徴収により、入山者数の減少に拍車がかかる恐れもある。このため地元の観光関係者からは反対や慎重な対応を求める声が上がっている。国や自治体は世代を問わず、より多くの人が尾瀬に関心を持ち、実際に訪れてもらえるような対策も並行して検討してほしい。
観光インフラの維持管理やオーバーツーリズム(観光公害)対策として、利用者などから料金や税を徴収する動きは広がっている。富士山では山梨県側の登山口で入山料を徴収しており、世界遺産の厳島神社がある宮島(広島県廿日市市)では島への訪問者1人当たり100円の訪問税をフェリー運賃に上乗せしている。
海外の国立自然公園などでは入園料を徴収し、公園内の管理や保護活動のほか、子どもたちの環境教育に活用している国もある。米国では国内すべての国立公園で入園料を設定している。
国内の国立自然公園は、気候変動や温暖化による生態系の変化などの課題に直面している。日本の自然保護運動の先駆けの地である尾瀬の入域料の導入検討を、国全体で環境保全意識が高まる契機にしなければならない。