保身や大統領選を見据えた動きは国内外の理解を得られるものではない。尹錫悦(ユンソンニョル)大統領や与野党には、政情安定に向けて責任ある行動が求められる。
韓国高官犯罪捜査庁(高捜庁)や警察などの合同捜査本部が、「非常戒厳」宣言を巡り内乱を首謀した疑いなどで尹氏を逮捕した。現職大統領の逮捕は初めてとなる。非常戒厳を発令し、国会に軍を侵入させるなどした責任は極めて重い。尹氏の行為が内乱罪に当たるかどうかを含め、真相の究明は不可欠だ。
尹氏は逮捕前、高捜庁には内乱罪の捜査権がなく、戒厳令は大統領の権限行使で「犯罪ではない」と主張し、供述を拒否した。逮捕後も同様の対応を続けている。検察トップを経験した国の指導者が、口をつむぐことで捜査に対抗しているのは理解に苦しむ。
自身の行動が内乱罪に当たらないとの考えならば、それを取り調べでも説明すべきだろう。
尹氏の職務を代行した首相が弾劾訴追されるなど、政府、国会は混乱が続いている。尹氏弾劾を巡っては、憲法裁判所の裁判官の欠員補充で与野党が対立している。弾劾の可否が大統領選の行方に大きく影響するためで、党利党略による争いであるのは否めない。逮捕状発付を不服として地裁に乱入するなど、尹氏の支持層の行動が過激化しており、退陣を求める層との分断も深刻だ。
高捜庁が最初に拘束を試みた際には、大統領の身辺を守る大統領警護庁とその指揮下とみられる軍が公邸で5時間半にわたりにらみ合う場面もあった。捜査と警備の当局が対立は、統治の不安定さを国内外に露呈したに等しい。
心配なのは、こうした政情や統治の不安定さが、経済や外交に大きく影響していることだ。外国為替市場では、戒厳の発令以降、通貨ウォンが急落している。尹氏の職務停止により、首脳外交などもできない状況も続いている。安定を取り戻せなければ、国際社会からの信用が失われることは避けられまい。党利党略や主導権を巡る争いの自重が求められる。
東アジアは、中国の覇権的な動きや北朝鮮の核・ミサイル開発などで緊迫している。韓国の不安定な状況の長期化は、経済での結びつきが強く、米国を含めた3国で安全保障面で連携する日本にとって望ましいものではない。こうしたなかで、日韓外相が先日会談したことは、両政府の危機感によるものだろう。対話継続で両国の連携を国際社会に示していくことが重要となる。