福祉施設や事業所の職員による障害者への虐待が後を絶たない。行政や地域が施設などとの関わりを強め、虐待を未然に防ぐ環境を整えることが急務だ。
厚生労働省の最新の調査によると、障害者が施設などの職員から受けた虐待は2023年度に1194件で、被害者は死亡1人を含む2356人に上った。いずれも過去最多だ。県内は前年度より8件多い18件だった。
虐待行為は身体的虐待と心理的虐待が多く、性的虐待もなくならない。虐待を受けた人の7割超は知的障害者だ。コミュニケーションに困難を抱え、訴えたくても訴えることができない人がいることは想像に難くない。
障害が重く、社会的立場の弱い人にとって、入所する支援施設などは生きるのに欠かせないよりどころだ。障害者の生活や尊厳を守るべき場所で虐待が行われている事実は極めて重い。
虐待の発生要因は、職員の知識・介護技術の不足や過度のストレスなどが多い。厚労省の有識者会議では、人手が不足する中、障害や介護技術に関する知識を深められないまま現場に立ち、ストレスを抱えて虐待に至るケースがあると以前から指摘されている。
知識や技術の不足から起きる虐待を職員個人の問題にとどめてはならない。県や市町村は事業者と連携して研修を拡充し、職員の質を高める必要がある。
重度の障害者を受け入れる施設は、親自らが介助できなくなった後に子どもを託せる数少ない場所だ。全国展開のグループホームが食材費を過大徴収していた問題では、他に受け入れ先がないため、問題に気付いても強く改善を求められず、泣き寝入りせざるを得ない親の現状も浮き彫りになった。
多くの施設は献身的に障害者の介助に当たっているはずだ。ただ、どのような支援が行われているのか外部から見えづらいのは否めない。利用者や家族らの声をどうくみ取るかが課題だ。
入所施設やグループホームには新年度から、利用者と地域の関係づくりやサービスの質の向上などを目的とした「地域連携推進会議」の設置が義務付けられる。利用者と家族、自治会や民生委員などの地域関係者らが委員を務め、入居者に対する職員の接し方や居住環境を確認したり、運営改善の助言をしたりする。
外部の目を入れることで虐待防止につなげる狙いもある。利用者が安心して暮らせるよう、推進会議が軸となり、地域に開かれた施設としていくことが重要だ。