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【3月12日付社説】震災14年・除染土の最終処分/成熟した社会かが問われる

2025/03/12 08:00

 県外での最終処分の最大の課題は再生利用が進まないことではなく、処分地選定だ。

 東京電力福島第1原発事故後の除染で出た土壌と廃棄物の大熊、双葉両町にまたがる中間貯蔵施設への搬入開始から、10年となる。これまで東京ドーム11個分に相当する除染土などが運び込まれた。政府はこのうち7割超に当たる、放射性物質濃度が1キロ当たり8千ベクレル以下の低濃度土壌についてはできる限り再生利用し、残った土壌を県外で最終処分する。

 政府は、保管している土壌などについて、法律に2045年3月までに県外で最終処分すると明記している。石破茂首相は福島民友新聞社のインタビューで「県外での最終処分は法律で決まっており、きちんと守る」と述べている。

 低濃度土壌の県外再生利用は、受け入れ側の住民の反発により実質的に頓挫している。低濃度であっても受け入れられない現状を踏まえれば、高濃度土壌を恒久的に保管する最終処分地の選定は、難航が避けられない。

 環境省は最終処分に必要な技術や面積を整理し、新年度から処分地の選定を進める。地元の同意やその後の施設整備などを考えれば、期限までの20年は決して長いとは言えない。処分地選定は既に切迫した課題だ。

 期限内の最終処分を着実に進められなければ、政府が繰り返してきた「福島の復興なくして日本の再生なし」という言葉の重みを自ら損なうことになる。除染土の処分のみならず、第1原発の廃炉を含めた復興政策全般への信頼の低下も避けられないと政府は肝に銘じるべきだ。

 環境省による理解醸成の取り組みは、除染土の問題の周知と安全性の強調に重きが置かれているのは否めない。現に中間貯蔵施設で安全に土壌が保管されているのを踏まえれば、安全はあくまで前提であり、中心的な論点ではない。最終処分場を受け入れるかどうかや、その後の運搬や施設運用にかかる費用の国民負担などについて議論を深めるためには、安全か否かの議論が繰り返される現状を変えていく必要があるだろう。

 除染や処理水など原発事故に関係する問題で、誰もが納得できる結論を出すことが極めて難しいのは、この14年で明らかになっている。大切なのは、明確な答えがなく、国民に負担が生じる問題について、社会全体で知恵を出し合い、合意を形成できるかどうかだ。政府の復興への姿勢とともに、私たちの社会そのものの成熟度が問われている。

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