• X
  • facebook
  • line

【3月13日付社説】震災14年・避難地域の移住者/生活の不安取り除く支援を

2025/03/13 08:00

 東京電力福島第1原発事故で避難指示が出された地域の生活環境や人間関係と、住民の心の健康は深く関わっている。帰還者の支援は大前提として、移住者へのケアを強化することが重要だ。

 避難指示が出されるなどした12市町村への移住者が増えている。地域によっては地元住民の帰還をはるかに超える勢いだ。

 福島医大の研究班が大熊、富岡、浪江、双葉、楢葉の5町を対象に行った調査では、回答した移住者328人のうち4割近くが転勤を理由にした転入者だった。配偶者の転勤に付き添ってきた妻や、原発事故のことを詳しく知らず移住した外国人らも少なくない。

 復興に貢献しているのは、被災地支援を目的とした移住者だけではない。好むと好まざるとにかかわらず転入した相当数の人が、経済活動などを通して関わっていることに目を向ける必要がある。

 研究班が5町の住民の心の健康度を調査した結果、うつ病や不安症の危険性が高いと疑われる住民の割合は、移住者が7・6%で帰還者の6・8%を上回った。全国平均の3%の2倍超だ。

 一般的な地域の移住でも、生活環境の変化がストレスの原因になると指摘されている。医療や交通など生活インフラが不十分な避難地域の環境が、ストレス増幅の一因になっているとみられる。

 移住者の心のケアが急務だが、被災者でないため、支援対象として認識されにくい。第2期復興・創生期間の取り組みでは移住者を増やすことに重点が置かれる一方、移住後のケアは支援メニューから外れているのが現状だ。

 移住者が不安なく暮らすための支援が、避難地域の復興に欠かせない。政府には、市町村や支援団体などがケアの提供体制を構築できるよう、移住者を支援対象に位置付けることが求められる。

 住民避難で従来の地域コミュニティーが壊れ、孤立しやすいのも避難地域の特殊性の一つだ。研究班は、移住者を交えてコミュニティーをつくる際、定住を意識し過ぎず、転出後もつながりを保てる「関係人口」の創出を念頭に置くことが重要と指摘する。

 移住者にはそれまで慣れ親しんできた生活スタイルや価値観があり、避難地域の文化になじめるとは限らない。職場から異動を命じられ、転出する人もいる。

 住んでもらうだけでなく、他の地域から応援し続けてもらうことが大切だ。コミュニティー再生に関わる行政や帰還者らは、移住者が転出する際に温かく送り出せるような関係性を築いてほしい。

この記事をSNSで伝える:

  • X
  • facebook
  • line