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【3月15日付社説】東電経営陣の無罪/責任を課す仕組みの検討を

2025/03/15 08:05

 東京電力福島第1原発事故による混乱、避難の長期化などにより多くの人が亡くなり、最大16万人超が避難した。未曽有の人災は、それを起こした会社、経営陣いずれも刑事責任を問われなかったことになる。しかし、そのことで東電の事故への責任がいささかも減じることはないことは指摘しておきたい。

 原発事故を巡り、旧経営陣が業務上過失致死傷罪で強制起訴された裁判で、最高裁は「事故の予見可能性はなかった」として、検察官役の指定弁護士側の上告棄却を決定した。原子力部門のトップを務めた武黒一郎、武藤栄の両元副社長の無罪が確定した。

 南海トラフ地震や日本海溝地震では原発立地地域にも津波の襲来が予想されている。福島第1原発事故があった以上、津波による事故が予見できないということはあり得ない。今後、津波への対策を怠り同様の事故が起きれば、電力会社経営陣の責任は免れまい。

 上告棄却は、裁判官3人全員一致の結論だった。弁護士出身の草野耕一裁判官が結論に賛同した上で、最大15メートルの津波の恐れがあるとの試算を速やかに報告していれば、国が防護措置を命じ、事故が防げた可能性を指摘し、異例の補足意見を付けた。「報告義務を怠った対応を過失行為とし、犯罪の成否を論じる余地もあり得た」との考えだ。

 事故を巡る刑事裁判と損害賠償などの民事訴訟では、いずれも巨大な津波が予測できたかどうかが争点となってきた。最高裁決定への補足意見では遅きに失した感は否めないものの、国に試算の報告を怠ったことが過失に当たる可能性があったとの指摘だ。発電事業者に対し、国などと連携した安全管理の徹底を促す材料となる。

 今回の裁判は、東電幹部の刑事責任を求める告訴、告発を受けた検察が立件は困難とみて不起訴とし、市民による検察審査会の議決を経て強制起訴に至った。津波の予見可能性を立証する難しさなどから、無罪の可能性があるとの見方もあった。

 審査会の議決は、多くの人の命や住む場所を奪う事故を起こした会社の経営陣が何ら刑事責任を問われないのはおかしいという、率直な市民感覚によるものだろう。

 国や電力会社は、安定電源の確保などを理由に原発への回帰を鮮明としている。原発を積極活用する以上は、市民感覚に照らしつつ、災害対策をいっそう促すためにも、事故が生じた際、経営陣に一定の刑事責任を課す仕組みなどを国は検討すべきだ。

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