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【3月18日付社説】首相の商品券配布/市民感覚とのずれ露呈した

2025/03/18 08:05

 市民感覚との大きな隔たりを露呈した。トップの認識がこの程度では「政治とカネ」の問題解決は到底不可能と言わざるを得ない。

 石破茂首相が今月3日に公邸で開いた自民党の衆院議員1期生15人との会食に際し、首相事務所が土産名目で1人当たり10万円分の商品券を配っていたという。政治資金規正法は、個人が政治家の政治活動に関して寄付してはならないと定めている。

 首相はポケットマネーで商品券を配布したと説明した上で、議員や家族をねぎらう目的であり、「政治活動には当たらない」と主張している。新人議員は自身の選挙区外であり、公選法にも抵触していないとしている。

 派閥の裏金や政治資金の不記載などの問題で国民の政治不信を招いているさなか、公邸に同僚議員を招いて会食し、土産代わりに金品を配ること自体、あまりに緊張感に欠ける行為だ。政治家同士の懇談が「政治活動ではない」という弁明にも違和感を覚える。

 総額で百数十万円に上る金品のやりとりは、物価高に苦しむ国民からの理解は得られないだろう。首相はきのう、「社会通念上、世の中の感覚と乖離(かいり)した部分があったことは痛切に思っている」と釈明した。政権トップとしての資質に疑問を抱かざるを得ない。

 首相は、過去にも商品券を配布していたという。党内からは「歴代首相が慣例として普通にやっていた」との声もあり、不適切な金品のやりとりが常態化している可能性もある。事実であれば、自民党の金権体質そのものを象徴する出来事といえよう。

 首相は党総裁として、こうした慣行がいつから続いているのか、他にはどのような金品の授受があったかなど、野党が求めている政治倫理審査会で説明すべきだ。

 会合には林芳正官房長官も同席した。首相は私費からの支出としているが、官房長官が管理しているとされる官房機密費からの支出も疑われている。会食や商品券購入の費用の出どころについても明確な説明を求めたい。

 少数与党で不安定な政権運営が続くなか、野党は首相への追及を強めており、焦点となっている新年度予算案の年度内成立が見通せなくなった。自民党から首相の退陣論が浮上している。

 党内のカネを巡る不透明な仕組みや慣行などを完全に改めることこそ、与党の責任であり、政治の信頼回復のために残された唯一の方法だ。総理・総裁を代えるだけでは、政権与党の責務を果たせないことを肝に銘じてほしい。

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