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【3月21日付社説】地下鉄サリン30年/凄惨な事件の記憶語り継げ

2025/03/21 08:15

 地下鉄サリン事件から30年がたった。オウム真理教の松本智津夫元死刑囚(教祖名麻原彰晃)の指示で都内の地下鉄車両に猛毒のサリンがまかれ、14人が死亡、6千人以上が重軽症となった犯罪史上類のない無差別テロだ。

 教団は、松本元死刑囚への絶対的帰依を掲げる「アレフ」など3団体に分かれ、活動を続けている。信者の数は全体で1600人に上り、全国に30の拠点がある。

 公安調査庁によると、特にアレフは、教団に関する知識の少ない若い世代を主な対象に勧誘活動を行っている。地下鉄サリン事件などは教団以外の者による陰謀などと説明することで、勧誘対象者に団体への抵抗感を抱かれないように誘導するという。

 教団の危険な思想は根深く残っている。社会全体で、教団が引き起こした凄惨(せいさん)な事件の記憶を若者らに引き継ぐことが重要だ。

 ジャーナリストの江川紹子さんは著書「『カルト』はすぐ隣に」(岩波ジュニア新書)で、強固な教義や価値観を絶対視し、他人の心を支配したり、人権を害したりする集団「カルト」は宗教に限らないと指摘する。過激な政治集団やマルチ商法といった経済的な集団の中にも存在するという。

 著書ではカルト研究者の西田公昭立正大教授の言葉が紹介されている。「生き方のモデルが見つけられずに迷っている時に、救世主のような人が現れて、『こう生きるのが正しい』と断言されたら、溺れる者は藁(わら)にも縋(すが)ってしまいがちです。社会が不安定で、将来に不安がある時などはなおさら」

 将来が見通せない社会状況なのは30年前と同じか、それ以上だろう。アレフなど、カルト性のある集団はどのような顔で近づいてくるか分からない。若者らは聞こえのいい言葉を疑い、落とし穴を避ける力を持ってほしい。

 地下鉄サリン事件は防ぐことができたと指摘されている。地下鉄での無差別テロに至るまでに、教団が起こした数々の事件への警察や行政機関などの不十分な対応が、その可能性を狭めた。

 教団の暴走を結果的に許した要因の一つに、マスメディアが警鐘を鳴らせなかったことがある。1990年ごろになると、教団にお墨付きを与える宗教専門家らの言説が雑誌などで流布された。松本元死刑囚が出演したテレビを見て入信した若者もいたという。

 教団に対する市民の警戒心を下げることに、メディアが加担したと批判されても仕方ない。事件から何を学ぶべきなのか。関係機関は、熟考する機会としたい。

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