東京電力福島第1原発事故の被災自治体が長期的な視野で復興を進められる環境を、どう維持していくのかが問われている。
石破茂首相が、復興庁の設置期間終了後の2031年度以降の復興対応を巡り、政府内で原発事故のあった本県の復興に特化した体制を維持する考えを示した。首相は「復興庁の果たしている役割が失われることがないようにしなければならない」と述べた。政府が創設を目指す防災庁への機能統合も視野に検討するとしている。
防災については、総務省や国土交通省が担う部分が大きい。第1原発の廃炉作業については経済産業省、除染土の処分や環境回復に関しては環境省が担うなかで、被災地域の回復を総合的に扱うのが復興庁だ。同庁が復興の司令塔、地元自治体と国をつなぐ窓口として果たしてきた役割は大きい。
防災と、地域の再建や住民への支援は性質が異なる。仮に防災庁に統合した場合、被災地の再建に特化した復興庁の果たしてきた役割が機能するのかは不透明だ。
他県を含め津波被災からの復興はめどが付きつつあるものの、原発事故の避難区域には、解除の見通しが立たない地域が残っている。帰還がかなった地域には官民の施設が増えたものの、多くの人でにぎわう状況とは言い難い。
復興という当初の目的が十分に達成できていないなかで、復興庁の別組織への統合の検討を始めるというのは理にかなっていない。統合ありきではなく、31年度以降の復興について、政府が責任を果たす体制をどう保っていくのかをこそ先に打ち出すべきだ。
復興事業を進める上で、財源は不安要素の一つだ。政府は26年度から30年度の復興財源の枠組みを決めることにしているものの、それ以降にまたがる未解決の課題が山積しており、31年度以降も新たな復興事業が始められるようにしておくことが不可欠だ。
政府が昨秋実施した、事業の効果などを公開点検する「行政事業レビュー」では、有識者が交付金の見直しを提言するなど、復興事業にはその費用対効果を疑問視する声が強まっているのは否めない。ただ、必要な事業を十分に行うための財源がおぼつかなくては、長期的な視野で原発事故からの再生を進めるのがより不透明になる恐れがある。
原発を推進してきた国には、原発事故により大きな被害を受けた人と地域を支える責任がある。組織も財源も、その責任の完遂につながるかを前提にして考えなければならない。