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【3月29日付社説】コメと食料安保/危機に備え生産力強化せよ

2025/03/29 07:54

 国内で唯一、自給可能なコメは食料安全保障の要だ。国には、深刻な不作や国際情勢の不安定化に伴う食料危機などの緊急時に安定供給する責任がある。

 農林水産省は、中長期的な農業政策の指針となる基本計画を改定する。改定案には、2027年度から水田政策を根本的に見直すと明記されたものの、需要に応じて生産量を抑制してきた従来のコメ政策から、増産へとかじを切るような方向性は示されていない。

 年間約700万トンの需要に対し、猛暑などの影響で30万トンほどの供給不足が生じただけで、急激な米価高騰を招くほど生産量自体が少なくなっている。一方で、肥料や農薬などの生産コスト上昇に悩まされる農家にとっては、ようやく経営が維持できる価格水準になったと指摘されている。

 従来の政策の延長線上では、農家と消費者の双方にとって適正な価格の形成は難しく、コメ離れの加速による生産基盤の弱体化が進むだけだ。農水省は、食料安保の観点から、コメ政策を抜本的に見直す時期に来ている。

 改定案では食料安保の確保策の一つに、パックご飯を含めたコメの輸出拡大が掲げられた。不測の事態が生じた際に、輸出用米を国内向けに回す計画だ。30年度の目標値は、24年度実績の7倍超となる35万トンに設定された。

 海外では和食ブームにより、比較的高価な日本産米の消費量が増えている。今後も需要は堅調に伸びるとみられている。ただ、輸出目標を達成するためには、より安価なコメを求める声にも応じて生産コストを削減し、国際競争力を高めることが欠かせない。

 農水省や自治体などは、生産性の高い輸出米産地を増やすため、多収品種や設備の導入などへの支援を拡充することが必要だ。

 輸出目標の35万トンは24年産米の生産量の5%に過ぎない。緊急時にどれだけの量を国内に振り向けられるのか不透明であることを踏まえれば、現在100万トンとしている備蓄米の増量が必要だろう。改定案にもコメを安定供給できるよう、総合的な備蓄の構築に向けての検討が明記された。

 農水省は今回、米価を安定させるために備蓄米約20万トンを放出した。放出した分と同じ量が買い戻される仕組みとなっているが、25年産米以降に十分な生産量がなければ備蓄量は回復できない。

 備蓄米が需給の調整弁に利用され、緊急時に活用できなければ本末転倒だ。農水省には、強固な備蓄体制の構築に向け、生産基盤を強化することが求められる。

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