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【3月30日付社説】水源保全の条例/本県の宝見つめ直す契機に

2025/03/30 07:53

 本県は豊かな森林を抱えている。その森林は地下水をたたえた水がめであり、本県は森林と水資源という宝に恵まれた土地と言えよう。そのことに目を向け、貴重な資源を守る大切さを県民が共有する契機とすることが大切だ。

 県は新年度、水源地域の土地売買に関する情報を把握するための条例制定の検討に着手する。県内の森林などが買収され、そこで地下水が大量に取水されたり、開発行為が行われたりすることで、生活用水や農業を含めた産業用水の枯渇や汚染の懸念があるためだ。

 条例は、地下水取水の動きや開発の動きをスムーズに察知することで、地下水への影響低減に向けた対応を図りやすくする狙いがある。地下水の枯渇や汚染は一度起きてしまうと取り返しがつかないことがある。それにつながりかねない動きを事前につかむための仕組みを設けることは、地下水の防衛策として不可欠だろう。

 茨城、栃木、山形など隣接各県は既に、水源地域の土地売買把握のための条例を設けている。他県は条例制定の理由の一つとして、外国資本による目的不明の森林取得の恐れを挙げていることが多い。本県でも、この10年の間に外国資本とみられる買い手が森林を取得したケースが約100件確認されている。その多くは利用目的が分かっていないという。

 外国資本に限らず、地下水をくみ上げることなどを目的とする森林取得に行政が監視を強めていれば、買い手は取得しやすい県などに目を向けることになる。本県が条例を制定すれば、地下水取得などの目的で県内の森林を買おうとする動きを抑えることも期待できるだろう。

 ただ、各県が独自に条例を設けて、目的不明の土地買収に目を光らせても、その効果には限界がある。先行する県の条例には、取引を届け出なかった場合に数万円の科料などを設けているケースもあるが、それが地下水取得などを抑えるのに十分なペナルティーではあるまい。

 国土利用計画法は、一定面積以上の土地取引について県などへの届け出を義務づけているが、小規模の取引は対象外となっている。条例による抑止には限界があり、抜本的な解決にはならない。地下水に県境はなく、地下水の枯渇や汚染がほかの県などに影響を及ぼす恐れもある。

 日本にとって水が貴重な資源であることは疑いない。国は地方の取り組みに任せてしまうのではなく、水源地域を守るための手だてを検討すべきではないか。

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