緊迫する中東情勢、戦闘が長期化しているウクライナの問題に手をこまねくばかりでは、その存在意義を問われかねない。
カナダで開かれた先進7カ国首脳会議(G7サミット)が閉幕した。イスラエルとイランの交戦を巡っては、G7の結束を打ち出せるかが焦点となっていたなか、「イランの核兵器保有を容認しない」とする共同声明を採択した。
当初、議長国カナダのカーニー首相は、イスラエルとイランの双方に自制を求めるメッセージの発信を目指していた。しかし、声明への署名に難色を示したトランプ米大統領に配慮し、イランを「地域の不安定化やテロの源だ」と非難し、イスラエルの自衛権については支持する声明になった。イランの核関連施設への攻撃を批判する内容も盛り込まれなかった。
これでは双方に自制や停戦を促すどころか、イスラエルの暴走を容認する声明だ。米国の意向を反映したにもかかわらず、かねてからG7を軽視する姿勢を示すトランプ氏は、中東情勢への対応を理由に途中で会議から離脱した。
戦闘は日ごとに拡大し、一刻の猶予も許されない状況だ。国際秩序の維持に最大限努めなければならない7カ国がその結束を示すことができず、無力さを国際社会に露呈した。失望を禁じ得ない。
米国はイラン攻撃への関与を否定しているものの、イランが報復として発射した無人機やミサイルの迎撃でイスラエルを支援しているとされる。トランプ氏はイランに「無条件降伏」を要求し、米軍によるイラン核施設への攻撃も検討中と伝えられている。
米軍が直接攻撃に関与すれば、国際社会の緊張感のさらなる高まりは避けられない。同盟国の日本をはじめ、6カ国がトランプ氏に自制を強く促す必要がある。
サミットでは人工知能(AI)技術や重要鉱物のサプライチェーンの強化、山火事への対応など課題別に共同声明や行動計画がまとめられた一方、首脳宣言や首脳声明は見送られた。
ウクライナ情勢に関する共同声明も出せなかった。帰国したトランプ氏以外の首脳がウクライナのゼレンスキー大統領を交えて協議したが、米国がロシア批判の文言に反対したことが理由とされる。
今回のサミットは1975年にカナダを除く6カ国による首脳会議が開かれてから、50年の節目となった。国際社会が直面する多くの課題に英知を結集し、解決に導くのが本来の役割だ。米国に翻弄(ほんろう)され、混乱に拍車をかける現状は変えなければならない。