米軍がイランの三つの核施設を攻撃した。トランプ米大統領は攻撃後の国民向けの演説で「世界にとって歴史的な瞬間だ」と誇って見せた。確かに歴史的ではある。ただし、米国がもはや国際的な秩序を守る側ではなく、他国の主権を踏みにじる側にあることを決定的に示したという意味で、取り返しのつかない歴史的な瞬間だ。
国連や日本をはじめとする国際社会は、米国を国際秩序を尊重する国に回帰させるため、あらゆる説得を尽くさねばならない。
米国は核兵器の開発抑止を掲げ、地下施設に対して特殊貫通弾を初めて使用する強い措置を取った。イランなどは、核施設への攻撃が国際法などに違反すると批判している。イランは濃縮度の高いウランの精製を加速させており、核兵器を生産しようとしている疑いが濃い。ただ、開発阻止が目的であれば、国連などの場で開発の証拠などを示し、対応を協議するのが本来の在り方だ。
イランは周辺地域の米軍基地などへの報復攻撃を示唆している。それが実行されれば、イスラエルとの戦闘を含め、戦火の拡大、泥沼化は避けられない。
英国、フランス、ドイツはイランに対し「地域を不安定化させる行動を取らないよう強く要請する」との共同声明を発表し、核問題を巡る交渉に応じるよう求めた。イランは報復ではなく、核開発を巡る交渉に応じる姿勢を示すことで、米国とイスラエルの攻撃抑止に向けた国際社会の動きを促していくべきだ。
攻撃の判断は、イランと交戦状態にあるイスラエルからの強い要請などを考慮したものとみられる。ただ、イランへの直接攻撃についてはトランプ氏の支持層からも反対意見がある。米国内からも、軍事介入を抑える世論が高まるのを期待したい。
石破茂首相はきのうの記者会見で、「米国の対応は事態の早期沈静化を求めつつ、イランの核兵器保有を阻止する決意を示したものだ」と述べ、米国の攻撃を実質的に支持した。ただ、今回の攻撃は、平和主義を掲げる国として本来容認できるものではないはずだ。今回の行動を認めてしまっては、台湾に領土的野心を示す中国にも誤ったメッセージを送ったことにはならないかが心配だ。
イランが原油輸送の要衝であるホルムズ海峡封鎖などに踏み切れば、原油価格の高騰を招く恐れもあり、世界経済への悪影響が強く懸念される。日本政府は同盟国として米国の独善的な姿勢をいさめる役割を果たすべきだ。