東京電力が、福島第1原発の建屋内にある高線量土のうの回収作業を始めた。原発事故直後の汚染水対策で使われたもので、総量は40トンに及ぶ。地下の水中にあるため、ロボットで中身をかき集め、水とともに地上へポンプで吸い上げる工法を採用した。東電には、放射性廃棄物の安定的な保管につなげることを求めたい。
2011年の原発事故では、溶け落ちた核燃料を冷やすため大量の水を注入した。その水は高濃度の汚染水となって原子炉建屋などにたまり、あふれて海に流れ出ることが懸念された。東電は緊急措置として汚染水をくみ出し、近くにあった高温焼却炉建屋とプロセス主建屋という二つの建物の地下に移送した。
土のうは、それぞれの建屋の地下2階の床面に置かれた。汚染水に含まれた放射性物質を吸着させる効果を期待し、中にはゼオライトや活性炭が詰められた。その後に汚染水が流し込まれ、それぞれの地下2階は水没することになった。土のうはそのまま放置され、時間が経過する中で放射性物質を吸着し、高線量化した。
原子力規制委員会は再び津波が原発を襲った際、放射性物質を含んだ水が流出しないよう、原発の施設内の滞留水の解消を東電に指示している。他の場所ではほぼ完了したが、この二つの建屋では土のうの存在がネックになり手を付けられない状況だった。東電は安全に十分に配慮し、着実に土のうを回収することが重要だ。
東電によると、ゼオライトなどが放射性物質を吸着しているため、土のう表面の放射線量は最大で毎時3~4シーベルトと桁違いに高く、1・5メートルの水の遮蔽(しゃへい)があっても空間線量は最大で毎時400ミリシーベルトに及ぶ。このため、東電は点在する土のうを集め、地上に吸い上げるまでの作業を基本的にロボットを遠隔操作して行う計画だ。
全てを回収するには、約3年かかることが見込まれる。工程の大半を無人化したが、ゼオライトを集めるためのホースをロボットにつなぐ作業などでは、どうしても人が関わらなければならない。東電には、放射線の遮蔽や放射性物質の飛散対策を万全にし、作業員の被ばく線量を抑えてほしい。
回収作業の開始により、土のうの上に障害物があることなどが分かった。廃炉作業で数シーベルトという高線量の放射性物質を扱うことは、これまでない経験になる。国と東電は、安全対策を常に見直すとともに、回収を通じて得られた知見などを今後の廃炉作業に活用してもらいたい。