運送事業者としての職責の重さを自覚し、組織の改革を実行しなければ再生は困難だ。
日本郵便が配達員の酒気帯びの有無を確認する法定点呼を適切に実施していなかった問題で、国土交通省は各地の郵便局などで保有する全てのトラックやバンの貨物運送事業の許可を取り消した。車両は集配拠点を結ぶ都市間輸送などに使われていた。対象は約2500台に上る。今後5年間は許可を再取得できない。
集配業務を担う郵便局のうち75%に当たる2391局で不適切な点呼業務があり、実態を偽る記録簿の改ざんが10万件以上確認されている。飲酒運転も判明した。
約17万人の従業員を抱える巨大組織でありながら、物流業者として最も大切な安全を軽視した行為が常態化していた。輸送に不可欠な車両がこれほどの規模で使用できなくなるのは極めて異例だが、厳しい処分は当然だ。
日本郵便は、大手運送会社や子会社などへの委託、許可取り消しの対象から外れた軽バンや軽トラックの活用で対応する方針だ。ただ、各郵便局から手紙や荷物を宅配している約3万2千台の軽バンなども、一定期間の使用停止の処分が科せられる可能性がある。
今後、使用停止の台数が増えれば、国内の物流ネットワークに大きな負担をかけることになる。そもそも物流業界は運転手不足が深刻で、新たな業務を容易に受託できるような環境にはない。
配達の遅延などで企業の経済活動や住民生活に支障が生じないよう、国は物流業界の動向を注視し必要な措置を講じるべきだ。
はがきなどの郵便物の減少で、日本郵便の2025年3月期連結決算は純損益が42億円の赤字となった。今回の処分に伴い、委託先への追加費用の発生など、経営を支えてきた物流事業の収益悪化も避けられないとみられる。
日本郵便は、全国の隅々にまで張り巡らされた約2万4千の郵便局の維持が課題とされる。このため統廃合、業務効率化のためのサ
ービス見直しなどを進めている。
地方は物流インフラが脆弱(ぜいじゃく)だ。特に銀行の店舗やスーパー、コンビニがない過疎地では、郵便局が郵便物や荷物の配送にとどまらず、高齢者の国民年金の受け取りなど重要な役割も担っている。
2007年に民営化されたとはいえ、地方にとって郵便局は貴重な生活インフラだ。日本郵便を傘下に持つ日本郵政の株の3割を国が保有する。地方創生を掲げる国は、民間企業の問題と捉えず、影響回避に努めなければならない。