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【7月12日付社説】東北大の拠点整備/新産業創出を加速する場に

2025/07/12 07:50

 東北大が、浪江町に研究開発や人材育成などの機能を持たせた拠点施設を整備する計画を明らかにした。来年度から研究者らを配置し、同大が掲げる「FUKUSHIMAサイエンスパーク構想」を実現するための中核施設として運用する。同大の専門知識やネットワークを浜通りの地域再生につなげる場とすることが重要だ。

 サイエンスパーク構想は、産学官が連携し人材育成や新規創業を進め、生み出される研究成果を地域社会で実用化していく取り組みだ。福島国際研究教育機構(エフレイ)と連動した研究を軸にしながら、同大が連携協定を結んだ南相馬、浪江、双葉、大熊、富岡の5市町の求めに応じ、スマート農業の推進などの復興支援も行う。

 浜通りでは、福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想が進められている。東北大は初の国際卓越研究大学に認定され、国内外の企業や研究機関から注目される存在だ。地域が直面する課題を解決する技術を持った企業や研究者を拠点に集め、浜通りの経済再生や新産業の創出を加速させていくことを求めたい。

 浪江町の施設は、研究拠点と活動拠点に分かれる。研究拠点は浪江町が整備する産学官連携施設内に入居し、水素エネルギーに関連した研究などを進めていく。活動拠点は、研究拠点に隣接して同大が独自に整備し、宿泊機能も設けて学生ら100人以上が活動できる規模とする見通しだ。

 相双地方では、原発事故に伴う住民避難の影響があり、現住人口が震災前に比べ減少している。研究者や視察で施設を訪れる人、活動拠点での教育プログラムに参加する学生らが滞在することは、地域の活力につながる。県や周辺自治体は、受け入れ態勢を整えることで大学の取り組みを支え、交流人口の拡大に結び付けてほしい。

 同大は拠点を中心に「BOSAI人材育成プログラム」を実施する。学生や研究者らを対象に基礎から専門の3コースで、防災知識や地域再生の手法などを身に付けてもらう試みだ。浜通りの現場を視察したり、住民と交流したりすることで実践的な学びとする。

 プログラム運営に向け、総合大学の強みを生かして理学や工学、人文社会学など多分野にわたる教材が作られる予定だ。地震と津波、原発事故、風評被害が絡まった複合災害の教訓などを体系的に捉え直す内容で、全国の人に学んでもらう意義は大きい。幅広い層にプログラムへの参加を呼びかけ、本県の復興に関心を寄せる人を増やす役割も期待したい。

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