出処進退がここまで大っぴらに語られるようでは、責任ある政権運営はできまい。早期に辞任を表明すべきだ。
石破茂首相(自民党総裁)が参院選大敗を受けた自身の進退に関し、近く最終判断する意向を固めた。党内では、地方組織や若手議員などから総裁選の前倒しなどを求める声が上がっている。石破氏の総裁選出を後押ししたのが地方からの票だった。それが今や、石破氏にノーを突き付けている形だ。
こうした進退論が拡大している背景には、続投の理由の一つとしていた、日米関税交渉の合意がある。首相経験者らときのう会談した首相は「出処進退の話は出ていない」と続投の意向を強調したものの、引責辞任は避けられない情勢となっている。
自民党は昨秋の衆院選、6月の都議選といずれも大幅に議席を減らした。与野党が事実上の政権選択選挙と位置付けた参院選でも、勝敗ラインとしていた非改選を含めた過半数を維持することができなかったのを踏まえれば、辞任するのが当然だ。
衆院で過半数を割って以降、予算案などで野党の要求を半ば丸のみするような形で何とか政権運営を続けてきたのが実情だった。物価高に加え、米政権が強硬な関税措置を発表するなど難題が噴出するなか、思い切った政策を打ち出す力を欠いた。
石破氏が首相に選ばれた際、有権者が期待したことの一つは、政治とカネの問題に代表される自民党の負の部分を改めてくれることだったはずだ。しかし、衆院選後には、新人議員に会合で商品券を配ったことが明らかになるなど、旧来の自民党と何ら変わることがなかった。党内基盤の弱さから前言を翻す場面も目立った。
こうした失策の積み重ねが、有権者の失望と政治に対する不信をより強め、参院選での敗北につながったのは間違いない。
身を引くタイミングは、衆院選後など、これまでもあったはずだ。少子化や安全保障など国が取り組むべき課題が山積し、より適切な政策が求められるなか、実行力を欠く政権を延命させてきた自民、公明両党の責任は重い。
野党の責任も看過できない。衆院選で過半数を得ながら、敗北した自公両党に政権を担わせた。通常国会の閉会時に不信任決議案の提出を見送り、結果の出せない政権の延命を助けたことも含め猛省すべきだ。参院選でも野党は多くの支持を得た。衆院選と同じ轍(てつ)を踏むことがあってはならない。責任ある行動が求められる。