日米の関税交渉が合意に達した。米国に突き付けられていた高関税の発動が8月1日に迫る中、より低い関税率で妥結したことは評価できる。ただ、当初目指していた追加関税の撤廃は断念した格好だ。合意した新たな経済環境が真に国益を守るものだったのか、まだ検証が必要な段階だろう。
トランプ米大統領のSNSや石破茂首相の説明などによれば、日本からの輸入品に適用される相互関税は、25%から15%に引き下げられる。焦点となっていた自動車や主な自動車部品への追加関税は半減され、既存の関税2・5%と合わせ計15%となった。石破氏は、「対米黒字を抱える国の中でこれまでで最も低い数字だ」と成果を強調した。
産業界は最悪の状況は回避されたとの受け止めだが、従来に比べ高い関税下での輸出を余儀なくされる。自動車関連産業は裾野が広く、米国向け製品の売り上げの変化や損益を吸収するためのコストカットなどの過程で、県内企業にも影響が出ることが懸念される。国は関税引き上げが景気後退などにつながらないよう、積極的に支援策を講じなければならない。
関税以外の分野でも、新たな合意があった。トランプ氏がこだわっていたコメの輸入については、ミニマムアクセス(最低輸入量)の枠内で米国産の輸入量を拡大することになった。日本企業の対米投資の促進に向け、医薬品や半導体などの分野で政府系金融機関が最大80兆円規模の出資や融資を提供することも申し合わせた。
トランプ氏が投資を巡り「利益の90%を米国が受け取る」と発言するなど、これらの合意については詳細が分からない部分がある。国内の産業構造に打撃を与える要素はないのか、国の資産の流出につながる事態にならないか。国には、国会審議などを通じて国民に説明する義務がある。
一定の成果を得た半面、鉄鋼やアルミニウムにかけられている50%の追加関税はそのままになった。そもそも、米国による一方的な高関税の発動は世界貿易機関(WTO)のルールに反しており、自由貿易を阻害する振る舞いにほかならない。
日本は、カナダやオーストラリア、メキシコなどと相互の自由貿易を促進するためのルールである環太平洋連携協定(TPP)を締結している。加盟国には英国も含まれるほか、最近では欧州連合(EU)が協力関係を模索している。国は多国間の連携を強化し、米国に関税引き下げや撤廃を求めていくことが重要だ。