県が東日本大震災と東京電力福島第1原発事故で大きな被害を受けた12市町村で、街並みや自然を散策する「フットパス」の整備を進めている。年度内には全市町村でモデルコースが完成する見通しで、楽しみながら地域再生の歩みを実感してもらう観光資源としていくことが重要だ。
フットパスは英国発祥で、「地域のありのままの風景を楽しみながら歩く道」を意味する。個人やグループが名所などを記したマップを手にゆっくりと地域を巡ることから、滞在型の観光客を呼び込む手段として各地で導入されている。12市町村では葛尾村などでマップが作成され、現在は大熊、双葉の両町でルート選定が進む。
被災地で整備を進めている背景には、訪れた人に古くからの町並みと自然、震災後に造られた施設などを組み合わせたルートを歩いてもらい、復興の現状を知ってほしいという狙いもある。県と12市町村は、アウトドア愛好者らを中心にコースの周知を図り、フットパスを入り口として本県を応援する人を増やしてもらいたい。
本県では既に、西郷村でフットパス活用の取り組みが進められている。行政と民間が連携して運営団体を組織し、歩く会を定期的に開催している。1回20~40人が集まり、その約3割が村外からの参加者だ。地元をよく知る住民が同行するため、丁寧な解説付きでコースを巡ることができるのが好評となっている。
12市町村のフットパスは、3~6キロを目安に住民の意見を交えてコースを決めており、運営は各地の観光関係団体などが担う見通しだ。西郷村の例を踏まえれば、イベントに住民らの協力を求めることは、参加者の満足度の向上につながる。市町村は受け入れ態勢を整え、多くのリピーターをつくる地域振興の柱に育ててほしい。
県や県観光物産交流協会はフットパス振興に向け、浜通り沿岸部を縦断する「ふくしま浜街道トレイル」との連携を検討している。トレイルはいわき市から新地町までの約200キロを七つに分け、JR常磐線の駅を起点におおむね1泊2日をかけて歩くルートを設定している。多くのフットパスのコースとは隣接する関係にある。
浜街道トレイルは2023年9月の開通後、ハイカーらの間で知名度が高まりつつある。海外の愛好者が訪れた事例もあり、効果的な連動でインバウンドを含めた誘客が期待できる。県や協会には両者を結ぶ情報発信や企画を積極的に進め、12市町村を「歩く旅」の先進地にすることを求めたい。