東京電力が、福島第1原発事故で溶け落ちた核燃料(デブリ)の本格的な取り出しについて、2030年代初頭から37年度以降に遅れる見通しになったと発表した。廃炉の工程表である「中長期ロードマップ」に掲げた、原発事故から40年となる51年までの廃炉完了は厳しい状況になりかねず、国と東電は猛省すべきだ。
東電は、デブリの大規模な取り出しを3号機で始める計画を掲げてきた。安定した取り出しに向けては、原子炉内部の調査や高線量部分の除染、機器の設置に伴う既存の建物の撤去などを必要としていた。工程を精査した結果、それらの準備に12~15年かかることが判明したため、着手見通しを後ろ倒しすることになった。
原発が立地する大熊、双葉の両町は「工程の一部が具現化した」「優先されるべきは廃炉作業の安全性」と、冷静な受け止めだ。ただ、作業の難易度に伴う予定の変更は理解できるが、これまでの見通しは甘すぎたのではないか。国と東電は工程管理を徹底し、さらなる取り出し時期の延期がないようにしなければならない。
取り出しの手法については、放射線の遮蔽(しゃへい)効果を保つため、原子炉格納容器に複数の小さな開口部を開ける工法を採用する。格納容器の上部から、特殊な機器を使って原子炉圧力容器の中にあるデブリなどを削り落とし、底部の横から回収することを想定している。
デブリを巡っては、2号機で試験的な取り出しを行ったが、その工程もトラブルなどで遅れてきた経緯がある。取り出した量もわずかで、3号機で想定するような削りだし作業は実施していない。国は、デブリ取り出しの工法が実現可能なものなのかを検証し、早期の着手に向け技術開発などを加速することを求めたい。
東電福島第1廃炉推進カンパニーの小野明最高責任者は、廃炉への影響を問われ「工程表を否定する状況ではない。示された時期を目指して取り組んでいく」としながらも、「(廃炉が終わるのが)何年とはいえない」と語った。東電に助言する原子力損害賠償・廃炉等支援機構の更田(ふけた)豊志廃炉総括監は、「元々困難」と発言した。
廃炉は本県復興の大前提で、国と東電は社会への約束として完了の目標を「中長期ロードマップ」で示してきた。事故を起こした原発4基を平行し廃炉する道のりには、当初から困難が伴っている。作業の安全を確保しながらも、取り出し着手以降の作業の加速化などを図り、影響を最小限にすることを肝に銘じてもらいたい。