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【8月6日付社説】原爆の日/「核なき世界」の決意新たに

2025/08/06 08:05

 80年前のきょう、米軍が広島に原爆を投下した。非人道的な兵器はわずか1発で14万人もの命を奪い、その3日後には長崎に投下され、7万4千人が犠牲となった。何とか生き延びても、多くの被爆者が筆舌に尽くしがたい後遺症などに苦しめられてきた。

 地球環境を破壊し、生命や健康を脅かす兵器は、二度と使われることがあってはならない。犠牲となった人々の冥福を祈り、核廃絶と同時に、不戦と平和への決意を新たにしたい。

 世界に被爆の実相を伝えてきた日本原水爆被害者団体協議会(被団協)が昨年、ノーベル平和賞を受賞した。80年の年月を経ても日本が世界で唯一の戦争被爆国であるのは、こうした被爆者たちの懸命な運動の成果といえる。

 しかし現在、世界の核弾頭総数は推計で約1万2千発に上る。ロシアは核兵器の使用をちらつかせ、核兵器を保有しているとみられるイスラエルはイランの核開発を阻止するため攻撃し、米国もイランの核関連施設への空爆に踏み切った。核廃絶どころか、それに逆行する動きが世界中で続く厳しい現実を、どう打開するかが国際社会全体に問われている。

 トランプ米大統領は広島、長崎への原爆投下と、イランの核施設攻撃により戦争を終結させたことを「本質的に同じ」と述べ、原爆投下を正当化する発言をした。大国のリーダーとして、その認識や言動は看過できないものだ。

 日本は米国の核の傘に依存し、核兵器禁止条約に背を向け、今年3月の第3回締約国会議へのオブザーバー参加も見送った。被団協代表委員の田中煕巳(てるみ)さんは「今の国際情勢は米国の顔色をうかがっている状況ではない」と憤る。

 核戦力を増強している中国、核開発に固執する北朝鮮の動きがあり、日本国内でも核抑止力の強化を唱える政治家がいる。先の参院選では「核武装が最も安上がり」と発言した議員が初当選した。

 たとえ核抑止力で大規模な戦争を防ぐことができても、軍拡競争を招き、人類はより危険な状況に陥る恐れがある。核の脅威を減らすには国際社会が対話を尽くすべきであり、日本はその動きを先導しなければならない。

 広島市長がきょう発表する平和宣言には、かつて被団協の代表委員を務めた故坪井直(すなお)さんが訴え続けた「ネバーギブアップ」のフレーズが引用される予定だ。

 市井の人が二度と同じ惨劇に遭わないよう、唯一の被爆国に生を受けた私たちは絶対に「核なき世界」の実現を諦めてはならない。

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