国が高い目標を掲げても、その賃金を負担するのは事業者だ。賃上げの流れを確実なものにするには、国がそれを可能とする環境を整えることが不可欠だ。
最低賃金(時給)の2025年度改定額の目安が全国平均で6.0%(63円)アップで決着した。時給の平均は現在の1055円から1118円となる。上げ幅、額ともに過去最高で、目安通りに改定すれば、初めて全都道府県で時給千円を超える。本県の目安は955円から1018円となる。厚生労働相の諮問機関、中央最低賃金審議会が取りまとめた。
賃上げの動きは進んでいるものの、食料品の値上げなどにより、物価変動を考慮した実質賃金は、目減りが続いている。最低賃金は雇用形態を問わず、労働者の賃金のベースとなるものだ。生活するのに十分な賃金を労働者が得る必要を踏まえれば、目安額のアップは妥当だ。
示された目安を参考に都道府県単位の地方審議会が改定額を決め、秋から適用される。本県の審議会は既に始まっており、労働者側と経営者側などの意見を聞き、今月中にも改定額をまとめる。焦点は、改定額を目安通りとするかどうかだ。
大幅な引き上げとなれば、本県に多い中小事業者にとっては重い負担だ。最低賃金に近い水準で働くパート従業員などは、これまでより労働時間が少なくても、扶養から外れない収入の上限「年収の壁」に達する。上限は引き上げられたとはいえ、こうした労働者が働き控えをすれば、労働力の不足はさらに深刻になる。
目安通りの引き上げとなっても、隣県の栃木、新潟、宮城を18~49円下回り、最も高い東京とは208円の開きがある。人材が県外に流出する原因となり得る。
審議会は、本県の労働者と企業の実情を十分に踏まえつつ慎重に議論してもらいたい。
最低賃金の全国平均を1500円とする目標を掲げる石破茂首相は、目安を上回った地域に財政支援するとしている。目標達成に向けて、賃上げの幅をより大きくする狙いがあるのだろう。都道府県が人件費増となる地元の事業者を支援できるよう、既存の交付金を拡充する案などが想定される。
中小事業者の賃上げが進まない背景には、人件費や原材料費の価格転嫁、デジタル化による省力化が進んでいないことなどがある。国にはこうした課題の解決につながる支援策を打ち出し、事業者に賃上げできるだけの体力をつけていくことが求められる。