石破茂首相がコメの安定供給に関する関係閣僚会議で「農業者が増産に前向きに取り組める支援に転換する」と表明した。現下のコメの不足、高騰を受けて、農政は事実上の減反(生産調整)から、増産へとかじを切ることとなる。
主食であるコメが安定的に生産、供給されることは日本の食料安全保障の根幹であり、持続可能な生産基盤が不可欠だ。増産を目指すとの判断は妥当だ。
政府は、農地の集約や耕作放棄地の活用などにより2027年度からの増産を目指すとしている。問題はそれをどう実現するかだ。
県によると、ことしの主食用米の作付面積は前年実績から約2割増え、全国最大の拡大幅となっている。価格の高止まりが続くとの期待感が背景にあるとみられる。ただ主食用米は飼料用米に比べて生産に手間がかかり、国が増産を担うと期待している大規模生産者がすぐに作付けを増やすのは難しいとの見方がある。耕作放棄地の再生も一朝一夕にはできない。
県の担当者は、県内で既に増産が進んでいるのを踏まえ「増産は方針だけで、具体的な部分はまだ。動きを注視している状況だ」と話す。
生産者は、価格維持を目的とした、減反などの国の政策に長く翻弄(ほんろう)されてきた。しかし、国の方針に沿って作付けを減らしても、価格は下がり、十分な利益を得られるようにはならず、生産者の意欲をそいできた。こうした農政の失敗が顕在化したのが、昨年来のコメの不足だったのは明らかだ。
人手や耕作地をコメに振り向けるには、首相の認識通り、生産者が安心してコメ作りに取り組めるようにしていくことに尽きる。政府は生産者の意欲喚起に向け、気候変動などによって需給が急変しても、生産者が収入を確保できる仕組みや、過剰在庫を防ぐための輸出販路拡大の道筋を示すことができるかが問われる。
現在の米価は、多くの消費者にとって受け入れ難いものだろう。ただ、生産のコストは上昇しており、それが価格に反映されるのは避けられない。コメの適正価格帯について消費者の理解を醸成しつつ、価格が安定化する方策を探る必要がある。
農林水産省は米価が1年で倍にまで高騰した原因について、需要が減り続けるとの前提に縛られ、生産量の不足が認識できなかったと総括した。誤った状況把握によって政策決定などを行えば、生産者、消費者いずれにも大きな影響が生じる。こうした誤りを二度と繰り返してはならない。