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【8月15日付社説】戦後80年/惨禍の記憶と教訓を後世に

2025/08/15 08:10

 先の大戦の終結から80年がたった。日本側だけで約310万人が犠牲になった惨禍を直接知る人は少なくなり、「戦争体験者がいない社会」となることが現実味を帯びている。不戦の誓いを新たにするとともに、平和を守る大切さを後世に継承する取り組みを強化していかなければならない。

 県遺族会は現在、戦争体験者や遺族の証言などをまとめた映像作品を制作している。最大2万4000人超だった会員が約4300人まで減少した現状を踏まえ、将来にわたり戦争の記憶と教訓を伝える資料とするためだ。完成後は県内41の遺族会に配り、各地の会員が学校などで映像の上映と講話を組み合わせた継承活動に取り組む。

 遺族会は今後、戦争体験者の子や孫世代の会員に祖父母や父母から聞いた話を語ってもらうことを目指している。かつて親族が集まった際などに語られていた戦時中の出来事は、語り継ぐ人がいなければ失われる。戦後生まれの世代の一人一人が、自分が聞いた戦争の教訓などを次世代に伝える役割を担っていることを自覚したい。

 郡山市の鴻ノ巣公園愛護協力会は、1945年4月の郡山空襲の被害を語り継いでいる。宮越稔会長は「子どもたちに『今いる場所で多くの人が亡くなった』と説明すると、自分の身に引きつけて考えてもらえるようになる」と、若者が戦争に関連した場所を訪れたり、話を聞いたりして過去に目を向けてもらう重要性を指摘する。

 次世代を担う子どもたちに長く戦争の教訓を引き継いでいく上では、市町村や学校など公的な機関が果たすべき役割は大きい。資料館や博物館、地元の語り部と連携し、学校での座学に加え、地域の戦跡などを訪れながら戦争の実態について学んでもらう機会を積極的につくることが求められる。

 日本財団が17~19歳を対象に行ったインターネット調査では、約8割が太平洋戦争を「しっかりと学んだ」「ある程度学んだ」と回答した。ただ、日本軍が東南アジアなどを占領したことは約3割が知らなかった。戦争が長期化して学生が軍に召集された「学徒出陣」と、日本が米国などと交戦した構図は約1割が知らなかった。

 戦争は、経済的な利害などが衝突して発生し、戦闘には非人道的な行為が伴う。日本では過去の出来事のように感じるかもしれないが、ウクライナやガザでは現在も多くの人命が奪われている。第2次世界大戦がどのようにして始まったのか、戦地で何が行われたのかを正確に伝え、再び戦争に至る道を閉ざしていくことが重要だ。

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