ウクライナへの侵攻は、ロシアに全面的に非がある。ロシアの言い分をのむような形での停戦は、ウクライナにとっても国際社会にとっても大きな禍根を残す。米国が寄り添うべきなのは、侵攻を受ける側であり、侵略する側ではない。その原点に戻るべきだ。
米国とロシアの首脳会談を経て、停戦を巡る動きが慌ただしくなっている。既に戦闘は開始から3年半近くが経過しており、犠牲者が増え続けている。一刻も早く停戦を実現しなければならない。
懸念されるのは、トランプ氏がロシアに寄り添う姿勢を強めていることだ。ロシア側の提案する東部ドンバス地域からの撤退、全域割譲などを受け入れるようウクライナに促しているとみられる。
トランプ氏は交流サイトに「ゼレンスキー氏は望めば即座にロシアとの戦争を終わらせられるし、戦い続けることもできる」と投稿した。暗にロシア側の提案をのむよう促しているように読める。
提案は、武力侵攻により受け渡すよう求めているに等しい。ウクライナがこの提案を拒否する構えを示しているのは当然だ。提案を受け入れれば、ウクライナは領土を失うことになり、他国などに領土的意欲を持つ国にとっては、武力侵攻で支配権を一定程度確立すれば、領土として割譲を期待できるとのあしき先例となる。
会談が実現したことで、トランプ氏が示唆していた、ロシアへの経済制裁の強化は見送られる形となった。ロシアのプーチン大統領は会談で協議継続の意思を示した上で、エネルギーや宇宙分野での米国との協力に期待を表明した。ロシア側の会談の狙いは、停戦実現ではなく、経済制裁の緩和などにあったとみるべきだろう。
停戦実現のためであっても、侵略行為をした国に利得を与えてしまうことは到底許されない。
プーチン氏は、ウクライナがドンバス割譲に応じれば戦闘を停止し、再攻撃しないと文書で確約する用意があると表明した。西側諸国の部隊のウクライナ駐留も容認したという。ただ、割譲の前提自体がウクライナにとって応じがたいものであり、プーチン氏に停戦の意思がないのは明らかだ。ロシアが攻撃を停止することが協議の前提となる。
欧州連合や英国などは、ゼレンスキー氏の領土割譲を拒否する姿勢への支持を鮮明にしている。力による支配を志向するロシアと米国への強い警戒感の表れだろう。日本は欧州諸国などと強く連携して、国際秩序の尊重を米国に求めていく必要がある。