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【8月24日付社説】保険証の失効/混乱回避の対応に注力せよ

2025/08/24 08:03

 ルール変更が相次ぎ、仕組みが複雑になるほど、利用者や医療の現場の混乱につながる。政府は抜本的な見直しを図る必要がある。

 マイナンバーカードに保険証機能を持たせた「マイナ保険証」への移行に伴い、政府は昨年12月、従来の紙などの保険証の新規発行を停止した。従来の保険証は有効期限が切れると失効するため、受診時はマイナ保険証か、保険証代わりとなる「資格確認書」のいずれかを提示しなければならない。

 保険証の有効期限は、75歳以上が加入する後期高齢者医療は7月末、自営業などが加入している国民健康保険も7月末の自治体が多い。今月以降、高齢者などが失効した保険証を医療機関などに提示し、受診できない事態が起きることが懸念されていた。

 このため厚生労働省は急きょ、国民健康保険の加入者は来年3月までの暫定措置として、従来の保険証を利用し、被保険者番号から保険資格を確認できれば通常の窓口負担割合で済むようにした。後期高齢者については全員に資格確認書を配布したほか、今月からは国民健康保険と同様に従来の保険証を利用できるように変更した。

 こうした度重なるルール変更は医療機関の負担を増やし、ミスやトラブルの原因になりかねない。紙の保険証を廃止するのであれば想定された事態でもある。政府の見通しの甘さは否めない。

 今後、会社員やその家族ら約6700万人が加入する、健康保険組合と協会けんぽの保険証も失効する。厚労省は利用者や医療機関が混乱しないよう、利用者への周知などを徹底してもらいたい。

 場当たり的な対応が続いているのは、マイナ保険証への移行が進んでいないためだ。6月時点の利用率は約3割に過ぎず、多くの人が紙の保険証を使っている。紛失による個人情報の漏えいなどを恐れ、カードを持ち歩かない人が多いことも要因だ。

 マイナ保険証は、医師が診療情報や薬の処方歴などを見て治療に生かせるなどの利点がある。カード自体に病歴などの情報は記録されていないため、紛失による情報漏えいの可能性は低い。政府は、マイナ保険証の利用率向上への取り組みにも注力してほしい。

 ただマイナ保険証では、本人確認するカード内の電子証明書の有効期限が切れて保険証の機能が失われ、受診できないケースが起きている。システムに接続できないトラブルもある。政府はこうした課題が解消されないのであれば、従来の保険証の廃止を撤回し、併用を認めるべきだ。

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