霜降り明星せいや、当たり前になった“肩パン”「顔が引きつるが耐えた」 高校時代の壮絶な経験明かす

11/25 09:53

  • エンタメ総合
せいや初の半自伝小説『人生を変えたコント』執筆風景

 お笑いコンビ・霜降り明星のせいやが初の半自伝小説『人生を変えたコント』(ワニブックス)を25日に発売する。自身が高校時代に経験した「ある日、突然はじまった」壮絶ないじめを赤裸々に明かし、いじめから何とか抜け出そうと生み出した1作のコントについてつづった内容。同書から、「大阪市市立ホシノ高校1年生のイシカワ」が語った、エスカレートしていったいじめへの詳細について、一部抜粋し紹介する。

【写真】赤字がびっしり…せいやの執筆風景

■当たり前になった“肩パン”「顔が引きつるが耐えた」

 相変わらず弁当の時間は、プールの裏、通称“オアシス”で食べるようにしていたが、休憩時間の教室のいじめのレベルはどんどんエスカレートしていった。

 クラスの空気も、イシカワが何かされていても、イシカワが泣いたり怒ったりもせず、トラブルになっていなかったので、この景色に慣れてきていたのだ。

 肩にパンチを食らう肩パン。これが毎回当たり前のように行われるようになっていた。イシカワは顔が引きつるが耐えた。ヘコたれていないイシカワの素振りを見てつまらないと思い始めた黒川の軍団は、4階の窓から4人でイシカワを担ぎ上げて廊下に足だけ残し、体を半分以上、窓から外に出して、イシカワのリアクションを見るという遊びを決行した。

 考えてみてほしい。友達でもないヤツらに足だけ支えられて、上半身は4階の高さからほぼ下に宙吊りの状態。誰かが下手をしたら命を落とす。そんな他人に命を握られている恐怖。ニュースでたまに流れてくる学生が校舎からの落下で亡くなる事故などは、こういう景色を見た人が被害者なんではなかろうか。そう思うと、イシカワは手汗が止まらなくなった。しかし、黒川のグループは、この行為を“スカイダイビング”と名づけ、「スカイダイビング楽しかったあ?」と敢えて聞いてきて、遊びの範疇だろうという空気を演出してきた。

 またある日は、黒川軍団の180cmの中村がイシカワを肩車して、いろんなクラスの廊下中を神輿のように担いで練り歩いて楽しむ黒川曰く“祭り”も始まった。祭りのまえは、トイレに連れていかれ、課外実習のときと同じように、髪の毛をヘアスプレーでニワトリのトサカのようにガチガチで固められる。そんな頭で、初めて行くクラスや廊下を肩車されて回るのだから、思春期にとってはたまらなく恥ずかしい。しかも黒川はそれを問題にはされたくないので、「イシカワも仲間たちと楽しんでいる」ような雰囲気をしたたかに作ってくる。

 なので、はたから見たら仲のいい友達がふざけているようにしか見えず、問題視されないのである。実際、1年8組の担任であった教師も、このときは黒川たちとイシカワはまだ仲がいいと思っていて、ノータッチだった。

 自分たちがいじめをしていないように楽しく見えるすれすれの嫌がらせを思いつくので、黒川はいちばんやっかいな知能犯的ないじめ野郎だ。アホなヤンキーみたいに顔面をぶん殴ってくれれば、さすがに学校も動き出すのだが、こいつのやり方は実に巧妙で、教師たちの目をかいくぐって、あたかも「こいつと友達ですよ」というようないじめを思いつく。

 そして物理的な攻撃でイシカワを苦しめるのが黒川の側近の中村。こいつが黒川のゴーレムみたいなヤツで、「頭脳が黒川、実行犯が中村と小林、そして野球部の篠原」というフォーメーションがだんだん見えてきた。そのほかは同調圧力で黒川軍団に参加している感じだ。

 なるほど、これは思っていたより厄介な敵かもしれないとイシカワはさらなる危機感を抱いた。実はそうなのである。この世の中で起こっているいじめは、いじめている側が問題にならないように上手く周りの大人や教師たちとの隙をついてくるので、根性だけではどうにもならないことが大半なのだ。

 結果、いじめにあっている人は、入り組んだ人間関係との頭脳戦を強いられることになる。そこが現代社会におけるいじめの複雑なところなのだ。

 でもイシカワはあきらめなかった。

 学校は休めない。休めば親に心配される。地元の友達にも、「あの明るいイシカワが学校でいじめにあっている」なんて、そんなことは絶対に思われたくない。簡単にいじめを言い出せないのは、そういう心理もある。

 しかし、イシカワに嫌がらせをするバリエーションはどんどん増えていった。掃除のロッカーのなかに入れられて、外から「ドンドンドンドン!」と叩かれる。暗闇のなかの出来事だし、これだけでもけっこうなストレスなのだが、これはまだ序の口に過ぎない。さらに「ドーン!」と大きな音がすると、イシカワの体は真横に倒れ込んだ。そう、なんとロッカーごと倒されてしまったのだ。しかもドアが地面の方向に水平に倒されるので、かなりの衝撃であるとともに、ドアが下なので、自分のタイミングで開けられない。ロッカーから出る権利さえ与えられないのだ。それでも黒川たちは「ゾンビだ!」と言いながらロッカーを開けて遊びのように立ち振る舞い、周囲の目からは“じゃれあい”なのか“いじめ”なのかわからないようにしていた。

 それでもイシカワは耐えていた。耐えれば大丈夫。なんてことはない。家に帰れば大好きなお笑い番組がある。漫才番組の台本を書き起こしているときはすべてを忘れられた。俺もいつか………そんなこともボンヤリ思うようになっていた。

 しかし、イシカワのメンタルが、実は悲鳴を上げていたことに、イシカワ自身もこのときは気づいていなかった。

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