福島県いわき市平字田町の繁華街で発生した大規模火災から、26日で半年となる。がれきの撤去が一部で進んだものの、黒焦げのまま手付かずの建物もあり、街並みの再建はいまだ途上だ。一方、店を焼失しながら再び田町で営業を始めた事業者も見られる。市を象徴する繁華街のにぎわい再生へ、少しずつ歩みが進む。
「半年で自分の店をまた持てるとは思っていなかった」。田町の雑居ビルに20日オープンした「ダイニングバー TOTTI(トッティ)」のオーナー志賀敏明さん(29)は声を弾ませる。この日は、限定のコース料理の仕込みに奔走していたが、その表情は明るかった。
志賀さんは火災の前、この店から数十メートル離れた場所で「天芯天」という飲食店を営業していた。家庭料理をメインに提供する店は多くの常連客でにぎわったが、突如、火の手に包まれた。
火災が発生した日は所属する野球チームの試合だった。試合後、スマートフォンには100件以上の通知が届いていた。いずれも火災を知らせる内容だったが、思い当たる節はなかった。「ガスの元栓は閉めていたはずだし…」
現場に駆け付けてすぐ、自分の店の被災を確信した。消火用ホースが店の入り口から店内に突っ込まれていたからだ。「明日から何をすればいいのか」。火を見つめながらぼうぜんとした。
火災後は、常連客がオーナーを務める店舗などでアルバイトをしながら移転先を探した。自分の店に設置した募金箱を手渡してくれた知人もおり「周囲の存在の大きさに改めて気が付いた」。新たな店の場所は、多くのつながりを築けた田町以外の選択肢はなかった。
店名は志賀さんのあだ名から付けた。店内はカウンター10席ほどで、志賀さんとの距離の近さがウリだ。「『トッティが作った料理が食べたい』とか『トッティがいるから行くよ』とか、そう言ってくれる人のためにまた全力でやりたい」。きょうも小さな明かりが田町にともる。(折笠善昭)
民有地、進まぬ解体と撤去
いわき市によると、火災で全焼5棟を含む13棟で被害が出た。7月29日現在、44テナントが被災、罹災(りさい)証明書は申請があった46件全てを交付した。出火原因などは現在も調査が進められている。
市は、関係部署や商工会議所などによる対策チームを設置。復旧に向けた動きを進めているが、被災した建物は民間の所有物のため公費解体ができず、所有者との調整が必要となるため、半年が経過した今でも、撤去できずにがれきが残ったままの建物があるという。
対策チームでは、被災者を対象に、各種保険制度の減免措置などといった支援制度をまとめたパンフレットも作成している。