戊辰150年の節目を機に始まった大型連載「維新再考」は、今回で最終回を迎えた。これまで連載でたどってきた、本県からの視点で見た歴史は、現代の私たちに何を呼び掛けるのか。会津ゆかりの早稲田大総長の田中愛治さん(67)、中央大文学部准教授の宮間純一さん(36)、東京大史料編纂(へんさん)所准教授の箱石大さん(53)、東北大専門研究員の友田昌宏さん(41)ら有識者に、戊辰戦争への新しい視点や、現代にまで続くその影響などについて聞いた。
◆早稲田大総長・田中愛治さん
国内対立より世界に目を
11月に早稲田大総長に就いた田中愛治さんは、会津藩で代々家老を務めた田中家の子孫に当たる。教育者として田中さんは「会津藩はいつも学問を重んじた。多くの藩士が苦しんだ斗南(となみ)藩時代も教育を徹底した」と、苦難を乗り越えた会津人の教育力を評価する。
田中家は会津藩の中興に尽力した家老田中玄宰や、幕末の京都で活躍し戊辰戦争の際に自刃した田中土佐を輩出した。
田中さんの父は日本共産党幹部を務め、後に反共に転じた政治活動家で実業家の田中清玄氏(1906~93年)。田中さんは、父から会津や田中家の歴史を聞かされ「会津藩士の末裔(まつえい)なのだから『ならぬことはならぬ』の会津の精神や教えを守らなくてはだめと刷り込まれた」と振り返る。
そして自身も「(大政奉還などで)薩長を中心とする新政府への政権移譲が平和裏になされた。しかし新政府軍の振り上げた拳は徳川家ではなく、会津藩に振り下ろされた」と会津の無念を語る。
ただ、会津藩や先祖について深く考えるようになったのは、約10年の米国留学を終えて帰国した30代からだった。たまたま自宅で父と一緒に視聴したテレビドラマ「白虎隊」(1986年)がきっかけだった。「父は泣きながらドラマを見ていた。気にくわない長州藩士などが登場すると父は『おまえが悪い』と指を差して怒鳴った。それを見て『会津人は歴史をこう見ているんだ』と実感した」と振り返る。
田中さん自身は大学教員の道を選び、総長の立場になった。「学ぶだけでなく、学んだことをいかに活用するかが大切だ。世界に比肩できる大学に発展させ、進んで世界に貢献する人物を育てたい」と教育者としての意気込みを語る。
会津と薩長にはわだかまりが残る。田中さんは父親や先祖の思いは理解できると前置きした上で「世界に目を向ければ、国内で対立している場合ではない。150年を経た今、歩み寄ることも必要だ」と国際的な視点で語る。
「国内を二分した戊辰戦争を教訓に『戦争は無益』との教えにつなげなければならない。現代を生きるわれわれは、今後の関係性をどう展開させるか試されている」と語った。