「どの程度風評が起きるのか」。処理水の放出が始まった24日、県内の漁業者は操業を続けたり、本県沖で9月1日に再開を控えた底引き網漁への準備を進めたりした。その胸の内にあるのは、新たな風評への不安と今後も漁業を続けていく揺るがない決意だ。
「私たちにできることはこれまで通り魚を取り、検査で安全性を確認して出していくことだけだ」。相馬市の漁師山崎芳紀さん(55)は言葉に力を込めた。
「今まで通り頑張る」
山崎さんは24日午前、地元の松川浦漁港にシラスを水揚げした。父や長男らと操業を続ける山崎さんは「孫の代まで漁ができる土台をつくりたい」と漁船を新調したばかりだ。漁師に憧れを抱いていたという16歳の若者を2週間前に受け入れ、一緒に沖へ出るようになった。「ここには下を向いている漁師なんか一人もいない。船に乗りたいという若者たちがいる限り、私たちは今まで通り頑張るしかない」。山崎さんの口調は熱を帯びた。
海洋放出が始まったことにより、買い控えを懸念する漁師は少なくない。相馬原釜魚市場買受人協同組合の関係者は「ヒラメとスズキの取引価格がこの数日で下落しているが、しばらくは市場の動きを様子見だ。下落の原因が何なのかは、この1週間で見えてくると思う」と話した。
「どんなことがあっても9月1日に出漁するよ」。いわき市の小名浜港では底引き網漁船「第3政丸」船長の志賀金三郎さん(76)が底引き網漁に向け、乗組員らと甲板の張り替え作業に汗を流していた。
志賀さんは半世紀以上、本県沖で底引き網漁を続けてきた。メヒカリやヤリイカ、ユメカサゴなど魚種が豊富ないわきの海の恵みを知り尽くしているからこそ処理水の海洋放出に反対してきた。「放出後、本県沖で取れた魚から問題となるような数値が出ないことを願っている」と話す。
震災と原発事故から12年かけて積み上げてきた安心と安全が崩れないよう政府と東京電力が万全の態勢で取り組むことを望む。志賀さんは「乗組員の生活のためにも漁を続けていく」と覚悟を口にした。