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脳卒中について。その60 脳卒中後のアパシー(無感情)について

07/16 12:39

 今回は、脳卒中後に発症する精神障害で、うつとは別に分類される自発性低下を主体とするアパシー(無感情)についてお話しします。

 1.脳卒中後アパシー(無感情)について

 脳卒中後遺症の精神症状には、前回述べたうつとこのアパシーがあります。アパシーとは、正常ならば当然何らかの感情や興味を示すような環境に対して感情反応を示すことがなく、無関心、無興味、無表情などを主な症状とする状態をいい、目的を持った行動、認知、情動が減弱することをいいます。

 脳卒中発症後からアパシーの併発までは平均約3カ月間で、症状の持続は平均5・6カ月間といわれています。アパシーが進行すると、機能回復や日常生活活動、健康状態、生活の質に悪影響を及ぼします。また、介護者に重大な負担をかけることもあります。さらには、身体感情まで鈍ってしまい、空腹感や痛みも感じなくなることがあります。

 無関心とは、周囲の環境に関心を払わなくなり、対人交流が乏しくなった状態です。具体的には、これまできっちりした生活を送っていたのに、生活習慣が乱れたり、何もしたがらず引きこもりになったり、これまでしっかりしていた掃除、洗濯、入浴、歯磨き、部屋の片づけ、着替えなどをしなくなり、部屋の中に下着や衣服が散乱した状態になります。そしてこれらの症状は自分では気が付かないことが特徴になります。そのため、周囲の人が変化に気づいてアパシーを発症していることが発覚します。

 2.うつとアパシーの関係(図)

 脳卒中後にうつになる方が約3割程度いることが分かっています。一方、アパシーは脳卒中の全経過中に9~28%の頻度で発症するといわれており、アパシーの併発背景因子としては学歴や糖尿病との関係が指摘されています。

 脳卒中後の生活で本人、介護者が困っていることを挙げてもらうと、身体能力低下によって日常生活動作に支障が出ていることももちろんありますが、一番多いのは、意欲がわかないことを挙げている統計もあります。この意欲低下がアパシーの症状の主な症状になります。脳卒中後にうつやアパシーを発症した場合、当然、日常生活動作や生活の質が障害されます。

 一見すると、うつとアパシーは似ています。例えば、食欲低下、興味の減少、喜びの喪失、疲れやすいなど重複する項目もありますが、図に示すように、アパシーは、情動反応が低下したり、周囲に無関心だったり、社会生活に参加したがらない、自分が病気であることを自覚しないなどの症状があります。そのため、アパシーの患者さんは病気を悩んだりしません。

 それに対してうつの患者さんは、抑うつ気分や、自己非難、罪悪感を持ち悲観し、絶望を感じて、時に自殺したい気分に陥りますが、アパシーにはそれがありません。

 脳卒中後は、うつとアパシーが合併することもまれではありません。脳卒中後のうつ症状が強い場合には、意欲低下の症状も起こりますが、この場合、やりたくてもできないのに対して、アパシーの場合には、やりたいという意欲そのものが起こらない状態と考えられています。

 また、うつの患者さんは自己の状態に対して悩みますが、アパシーの患者さんの場合には無関心であるため、悩むことはありません。抑うつ気分のないアパシーが純粋のアパシーといえます。純粋のアパシーの場合、情動面や思考面で、ポジティブでもネガティブでもなく、中立的です。

 3.アパシーの治療

 アパシーの治療は困難であることが多いようです。アパシーの患者さん自身のペースにリハビリテーションを任せていると患者の機能が改善しにくいため、治療者側がスケジュールを定めて、促しながら、積極的に患者さんを動かすようにしないといけません。

 うつの場合は休養が必要になりますが、アパシーの場合は休養よりむしろレクリエーションを含めた、活動的・行動療法的なアプローチが必要になります。特に一人暮らしの場合には生活が自立できずに破綻してしまうことがあります。患者の特性に合わせた個別の目標の設定や、患者が自ら定めた目標の設定も重視されます。

 薬物療法に関しては、アパシーには抗うつ薬の効果は乏しく、むしろドパミン遊離促進薬であるアマンタジンが効果を認めることがあります。

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 次回は脳卒中後のその他の精神症状についてお話しします。

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