【新まち食堂物語】姑娘・下郷町 幅広い客層に寄り添う味

11/17 13:00

  • 動画付き
店頭に立つ弓田正邦さん、きみ子さん夫妻。看板デザインはきみ子さんが考えた(矢内靖史撮影)
人気メニューのガーリックチャーハン、辛味噌ラーメン、ソースカツ丼

 下郷町の会津鉄道会津下郷駅近くにのれんを出す「姑娘(くうにゃん)」。会津若松市と白河市からの一本道が交差する交通の要衝に店を構え、子どもから高齢者までの客を出迎える。ラーメンやチャーハン、カツ丼、ギョーザなどの定番をそろえ、客に寄り添った食事を提供している。店を切り盛りする弓田正邦さん(62)、きみ子さん(62)夫妻は「体力が続く限り頑張りたい」と意欲を見せる。

 今も隣に時計店

 創業は1972年。正邦さんの母哲代さん(85)が調理を担当していた。父親が時計店も営んでいたため、正邦さんは高校卒業後、家業を継ぐつもりで滋賀県の時計専門学校に2年間通った。食堂も時計店も「手が足りない」ということで帰郷。すぐに保健所に行って講習を受け、調理を担えるようにした。「ばたばたでした。でもやるしかなかった」と正邦さん。姑娘の店舗には現在も「弓田時計店」が隣接している。

 創業時は狭い3階建てで、10人ほどが入れるスペースだった。23年前、近くの現在の場所に移転した。今はカウンターやテーブル席、座敷席を合わせると最大で約60人が座れる。看板メニューは「辛味噌(みそ)ラーメン」。ハバネロなどが入っていて、野菜をふんだんに使い、ぴりりとした辛さを味わうことができる。他にも、焦げ目をほんのりと付けた「ガーリックチャーハン」、たれがキャベツにしみ込んだ「ソースカツ丼」などが人気だ。ギョーザは午前6時から手作りする熱の入れようで、正邦さんは「冷凍だとキャベツのシャキシャキ感が出ない」と理由を明かす。

 「やるしかない」

 銀行で事務職を務めていたきみ子さん。20代半ばで結婚してからは食堂と時計店を手伝うことになった。時にはわが子をおんぶしながら両店を行き来し、接客に汗を流したこともあった。「昭和のホームドラマで、子守りしながら働く女性の姿を見たことがあって『今どきはそんな人いるのかな?』と思ったが、自分がそうなっていた」と笑う。ただ、当時の心境は「でも、やるしかない」。夫妻は期せずして似たような感想を話す。仕事に子育てに奔走する姿を見た客からは「あなたは嫁の鑑(かがみ)だ」と言われたこともあった。きみ子さんは「見てる人は見てるんですね」と振り返る。

 哲代さんは数年前まで接客をしていた。知り合いが多く、誰とでも明るく話していた。そのため、今でも哲代さんとの縁を大切にして訪れる年配客も多い。幅広い年代に対応するため、店はひと工夫した。麺の硬さや分量、スープの辛さなどは調整できる。正邦さんは「食べきって満足してもらいたい」と力を込める。夫妻は調理場に立ちながらも、広い視野を持つ。正邦さんはいつも同じメニューを頼む常連客が駐車場から店に向かってくる時点で、調理を始めるという「熟練の勘」を身に付けた。

 「お客さんのことを考えて調理するから楽しい」と正邦さん。きみ子さんは「お客さんに明るく笑顔で帰ってもらえたらうれしい」と言葉をつなぐ。夫妻が「やるしかない」と飛び込んだ食堂の世界は、食を愛する誰にでも優しい。(富山和明)

お店データ

■住所 下郷町豊成字林中6092の19

■電話 0241・67・2343

■営業時間 午前11時30分~午後2時

■定休日 月、木曜日(不定休あり)

■主なメニュー

▽辛味噌ラーメン=920円

▽ガーリックチャーハン=870円

▽ソースカツ丼=1100円

▽焼ぎょうざ=500円

▽唐揚ピリ辛ネギソース=850円

 運が開けるように

 姑娘と弓田時計店は隣同士。「くうにゃん」の看板は、きみ子さんがパソコンでデザインした。「ん」の最後は天に伸びている。きみ子さんは「運が開けるようにと縁起を担いだ。看板近くで写真を撮る人は多いが、由来を明かしたのは初めて」と話す。

 NHKラジオ第1「ふくどん!」で毎週木曜に連携企画

 新まち食堂物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『ふくどん!』(休止の場合あり)のコーナー「どんどんめし」で紹介される予定です。

この記事をSNSで伝える:

  • X
  • facebook
  • line