• X
  • facebook
  • line

脳卒中について。その61 脳卒中後の精神障害

08/01 12:00

 前回は、脳卒中後に発症する精神障害の中でうつやアパシーについてお話ししましたが、今回はその他の精神障害についてお話しします。

 1.感情の障害―感情失禁について(図)

 高次機能障害の回でも少し触れましたが、感情失禁とは情緒の障害で、感情を少し刺激されただけで急に笑ったり泣いたり怒ったりと、感情をコントロールできない状態のことを言います。会話の一部分や気になっていることに過剰に反応したり、ちょっとしたことで感情がコロコロ変わったり、無表情になったりします。また、自分自身で感情を調整することが難しくなり、怒り、悲しみ、喜びなどの感情が突然押し寄せてきて、場違いに笑ったり、泣いたりすることもあります。

 さらには、自分が抱いている気持ちとは異なる感情が、表に出てしまうこともあります。優しくされてうれしく感じているのに怒ってしまったり、逆に、内心では怒っているのに笑ってしまったり、悲しくないのに涙が出てくるなどの症状もあります。感情を過度に表すため、自分自身や周囲の人間関係によくない影響を及ぼすことが多くなります。

 2.感情失禁の人との上手な向き合い方  現時点で感情失禁のみの効果的な治療法は存在しません。そのため、周囲の人は、感情失禁のある人と、上手に向き合って接していくことが必要になります。周囲の人は、突然怒鳴られたり、泣き出されたりすると驚くかもしれませんし、場合によっては恐怖を感じてしまうかもしれません。そこで、感情失禁とはどういう症状なのか、何がきっかけになっているのか、どういうタイミングで症状が出てくるかを理解して接する必要があります。

 これは簡単なことではありませんが、家族やリハビリスタッフ、介護者などいつも一緒にいる方と観察、相談して情報を共有することが大切になります。そして重要なことは、周囲の人は感情を高ぶらせることなく、冷静に落ち着いて対応することです。感情失禁のある人は本来の感情と無関係に怒ったり、泣いたりしているわけで、それと同じように怒ったり泣いたりすると、本人は余計混乱してしまいがちです。

 もし、怒る場面でない時に怒っていたら、冷静に今は怒る時ではないと説明して会話を続けることです。感情失禁のある本人も家族も初めは戸惑うことがあると思いますが、病気がそういう症状を出していることを理解して、冷静に対処することが肝要です。

 3.不安

 脳卒中後に急に歩行できない、思ったように動けない、うまく話ができないなどという状況に置かれた時に、すぐにそのような状況に対応できるわけではありません。まず、現実世界を否定しようとする感情ができてきます。しかし、しばらくすると、現実を受け入れて、向き合わなくてはならなくなります。そうすると、自分の将来はどうなるのだろうかという不安が襲ってきます。仕事、家族などの事を考えると、不眠になったり、気持ちが落ち込んだり不安定になります。そんな時には患者さんの気持ちを周囲の家族やスタッフは受け止めてあげることが大切です。

 4.病識の欠如

 脳卒中後の運動麻痺や視力、視野障害などの身体的障害については自覚できますが、目に見えない領域の障害、例えば知的機能や認知機能は自覚できないため、自分の目で確認することができません。例えば記憶障害の方は何度も同じことを聞くので、家族は記憶力が低下していることがわかりますが、本人は「自分はどこも悪いところがない」と思っているので「自分は正しくて、家族がおかしい、変だ」と考えます。これを病識の欠如といいます。認知機能低下のある方にも同じような症状が出ます。

 これを治す薬はありませんが、族や周囲のスタッフは、できないことや低下している能力を本人に気づいてもらうような言葉での対応をしたり、患者さんの行動の結果を示してあげたりすることが必要になります。簡単にはいきませんので、時間をかけて少しずつ本人が意識できるようにすることが大切です。

 ◆   ◆   ◆

 次回も脳卒中後の精神障害についてお話しします。

 公立藤田総合病院・佐藤昌宏 福島県立医科大学医学部大学院卒業、医学博士号を取得。同大学附属病院から総合南東北病院、福島赤十字病院、原町市立病院等にて勤務し1996(平成8)年4月から公立藤田総合病院脳神経外科。2008年4月より同病院副院長。専門は脳血管障害の診断と外科治療。日本脳神経外科学会専門医・指導医、福島県立医科大学医学部臨床教授

この記事をSNSで伝える:

  • X
  • facebook
  • line