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脳卒中について。その62 脳卒中後の精神障害「せん妄」

09/01 07:30

 今回は脳卒中後に発症する精神障害の中で比較的多い、せん妄についてお話しします。

 1.せん妄とは

 身体の病気や手術、薬剤などが原因で起こる、軽度から中等度の意識の混乱をいいます。身体の治療を受けているすべての人に起こる可能性がありますが、高齢者や認知症の方に起こりやすいといわれています。症状は短期間のうちに出現して、夕方から夜間にかけて悪化するという特徴があります。脳の機能障害であり、精神的ストレスが直接の原因となって起こるものではありません。

 2.せん妄の症状

 (1)幻覚、妄想

 見えるはずのないものが見えたり、いない人の存在を感じたり、つじつまが合わない

 (2)集中力低

 ぼんやりしたり、もうろうとして注意力が散漫となったりする

 (3)昼夜逆転

 睡眠と覚醒のリズムに障害が起こり、昼と夜の生活が逆転し夜間不眠となる

 (4)興奮、怒りっぽい

 昼夜逆転に伴い、夜に感情が高ぶり興奮状態になり、やはり不眠となる

 (5)見当識障害

 場所、日付、時間が分からなくなる

 (6)夜間せん妄

 特にせん妄が夜間に頻繁に現れる場合、夜間せん妄といいます。昼間は落ち着いていますが、夕方から夜になると症状が出現します。外が暗いと不安や恐怖、孤独を感じるためではないかといわれていますが、詳細は不明です。

 3.せん妄の原因

 せん妄の原因は、準備因子、直接因子、促進因子の3つが影響し合うことで発症します。

 (1)準備因子

 せん妄が起こりやすい素因をいいます。例えば脳卒中の既往があり日常生活が低下している状態、高齢であること、せん妄の既往、アルコール大量摂取などが挙げられます。つまり、これらの因子を持っている人はよりせん妄を発症しやすいといえます。

 (2)直接因子

 脳の機能に影響を与えるような直接的な環境やイベントが挙げられます。例えば、身体の手術を受けた、あるいはせん妄を引き起こす可能性のある薬物を摂取した、脱水症や感染症、貧血なども直接因子になります。

 (3)促進因子

 誘発因子ともいわれ、周囲の環境や本人のコントロールが効かない状況をいいます。例えば、入院、手術、施設への入居、痛みなどの身体的苦痛、不安や孤独感などの精神的苦痛などが促進因子になります。

 4.せん妄と間違えやすい疾患

 (1)認知症

 認知症とせん妄は両者ともに記憶障害や幻覚、見当識障害など似ている症状が多く、時折、臨床現場でも混同されることがあります。

 せん妄は急激に発症し、場合によっては、日付や時間まで特定できることがあります。また、意識障害があったり、夜間に増悪するなどの日内変動があったりしますが、症状は一過性で終わることが多いです。

 一方、認知症はゆっくり進行して、意識障害はありません。また、日内変動はそれほど多くはなく、症状は永続的に持続します。急に認知症になったとか普段と様子が違うなどの症状はせん妄の可能性が高いといえます。

 (2)うつ病

 せん妄は「過活動型」「低活動型」「混合型」に分けられます。この中で傾眠、口数が少ない、無関心、活動性低下などの症状の「低活動型」は、うつ病との鑑別が困難だったり、見逃されたりする時があります。特に、高齢者や集中治療室にいる方、がん患者では「過活動型」より「低活動型」せん妄の方が多いようです。がん患者では、終末期に近づくほどに「低活動型」せん妄の割合が高くなります。がん患者さんでうつ病を疑ったら、まずは「低活動型」せん妄の可能性を考えます。うつ病は亜急性の発症で、日内変動は少なく、あっても調子が不良なのは午前中です。意識障害はなく、見当識障害や幻覚もありません。

 認知症もうつ病もせん妄とは治療が異なりますので、しっかり鑑別することが大切です。

 ◆   ◆   ◆

 次回は、せん妄の予防、対処法、治療についてお話しします。


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