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【処理水の波紋・海洋放出1年】放出量全体の5%

08/24 10:30

東京電力福島第1原発構内に林立する処理水を保管するタンク。海洋放出開始から1年となるが、タンクの解体はまだ始まっていない=9日(代表撮影)

 廃炉作業が進む東京電力福島第1原発の海側の一画。「ごろん、ごろん」という低音が耳に入る。処理水放出前、希釈用の大量の海水を混ぜた時に海水に含まれる空気がたてる音だ。東電は昨年8月の放出開始からこれまで通算7回で計約5万4700トンを海に流した。現在は8回目の放出が行われているが、計画通り終了しても放出された処理水は構内に林立するタンクに当初あった計約134万5千トンの5%にも満たない。

 放出と同時に原発には多くの地下水が流れ込み、放射性物質を取り除いた処理水は日々増え続けている。処理水を保管するタンクは構内に千基以上。敷地を圧迫するタンクを減らし、廃炉作業のための敷地を確保することが海洋放出の最大の目的だ。

 「ここまでたどり着いたことは、廃炉の進展を実感することの一つだ」。東電フェロー福島第1廃炉推進カンパニー処理水対策責任者の松本純一(61)はそう話す。東電はこれまでの海洋放出で空になったタンクを解体し、空いた敷地に3号機の溶け落ちた核燃料(デブリ)取り出しに関する施設を建設する予定だ。ただ現時点では1基も解体されておらず、着手は早くても来年1月の予定だ。

 作業ミス相次ぐ

 放出開始以降、原発では廃炉に関するトラブルが相次ぐ。放射性物質を含んだ水を浴びた作業員の被ばくや送電ケーブル損傷による停電など、重大事故につながる可能性もあった。22日には廃炉に向けた試金石とされる2号機からのデブリの試験的取り出しが準備段階でつまずき、延期された。

 相次ぐトラブルに専門家は警鐘を鳴らす。「地元の人たちが安心できるよう小さなトラブルの芽を摘んでいくしかない」。東京大大学院教授の岡本孝司(63)=原子力工学=は指摘する。岡本は作業への慣れがトラブルに直結するとし、廃炉に携わる全ての人が危険な現場で作業していることを自覚する必要があるとする。処理水放出については「完了までのスケジュールに向け、計画通りに続いている。このペースでじっくりと進めれば、貯蔵している(処理水に含まれる)トリチウム濃度は半減するので今後も安全に放出できる」と評価した。

 地元と論点共有

 処理水放出から1年が過ぎ、今後は廃炉の本丸であるデブリ取り出しや放射性廃棄物の最終処分など新たな課題への対応も迫られる。原発事故に伴う社会問題に詳しい東京大大学院准教授の開沼博(40)=いわき市出身、社会学=は原発を取り巻く課題の認知度が低いとし、議論が深まる前に廃炉作業が進むことを懸念する。「今後の廃炉の問題は地元の議論が重要になる。棚上げできないことばかりで、論点を共有して進める必要がある」(文中敬称略)

 この連載は矢島琢也、丹治隆宏、木村一幾が担当しました。

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