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【環境考察/農業新時代】中干し延長、メタン減 土壌の生成微生物が不活化

09/07 08:30

中干しが始まった田んぼ。土が露出し、ひび割れのようになっている=7月、会津坂下町

 二酸化炭素より温室効果が高いメタンガスが、水田から排出されている。地球温暖化防止の観点から各地で対策が進む。

 夏の太陽が降り注ぐ7月中旬、「中干し」が始まった会津坂下町の田んぼに水はなく、露出した土が、ひび割れのようになっていた。「土質などで、やる場所とやらない場所があるけど、だいたい毎年7月上旬ぐらいにやっているよ」。米作りをする藤川将仁(48)は話す。

 一般的に7~10日程度行われる中干しの期間を前後に延長することが「メタンの抑制に効果がある」とされる。農林水産省などによると、7日間延長すれば3割削減できる。県農業総合センターが2021~22年に実施した調査によると、秋に稲わらをすき込んだ上で、中干しを2週間程度行うと、メタン排出量を削減でき、収量への影響も認められなかったという。

 なぜ水田からメタンが排出されるのか。「イネではなく、土壌の中でメタンがつくられている」。農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構、茨城県)で緩和技術体系化グループ長を務める須藤重人(59)は説明する。

 須藤によると、水田の土壌の中には酸素を嫌い、メタンをつくる微生物(メタン生成菌)が潜んでいる。田んぼに水を張ると、水が大気中の酸素をブロックする役割を果たし、土壌中の酸素が少なくなるため、メタン生成菌の活動が活発になる。つくられたメタンの大部分はイネの茎や根にある隙間を通って大気中に放出されており、国内の農林水産分野のメタン排出量のうち、稲作由来が大きな排出源になっている。

 品質維持が前提

 須藤は「多くの農家が中干しをしている。その期間を少し長くすれば、メタンを抑えることができる」と力を込める。ただ、コメの品質や収量に影響が出ては意味がない。影響を考慮すると、延長期間は「地域によって違うが、1週間程度」とみている。

 中干し期間の延長によるメタンの抑制は「J―クレジット」に認定され、削減量を取引できるようになった。県内で取り組む生産者も出てきている。

 農業試験場が先駆

 県農業試験場(現県農業総合センター)で水田とメタンの研究に関わり、現在はJA全農福島技術常任参与を務める三浦吉則(62)によると、水田とメタンに関する国内の研究は1980年代に始まり、同試験場が初期段階から参画してきた。中干し期間の延長によるメタン抑制の研究は、同試験場が全国に先駆けて行い、学会などで成果を先行発表した。2007年度には県が公的機関として正式に発表している。

 三浦は「(コメの)収量や品質を低下させずにメタン発生を抑制できる方策を今後の稲作に定着していくことが重要だ」と指摘する。(文中敬称略)

          ◇

 中干し イネの生育中に田んぼの水を抜き、地表を乾かすこと。土の中に酸素が供給され、根腐れ防止や根の活力を高めたりできる。天候などによって違うが、7月ごろに7~10日程度行われることが多い。

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