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水害教訓に早期避難、災害弱者への発信課題 いわき記録的豪雨1年

09/08 07:15

災害時の備品を確認する山脇さん

 県内で初めて線状降水帯が発生し、いわき市に甚大な被害をもたらした昨年9月の記録的豪雨から8日で1年。線状降水帯は短時間にまとまった雨が降るため、被害の軽減には避難情報発令後の迅速な避難が不可欠だ。同市は今年8月中旬に線状降水帯の発生が見込まれたため、市内全域に避難指示を発令。昨年の教訓に基づき早めの避難を選択した市民がいた一方、災害弱者とされる高齢者らへの情報発信には課題も残った。”逃げ遅れゼロ”に向けた試行錯誤が続いている。 (いわき支社・折笠善昭、小磯佑輔)

 何かある前に

 「人生で初めての水害。水害の怖さを知った」。氾濫した新川流域にある同市内郷綴町で、小学2年の息子と暮らす山脇明日香さん(35)の記憶は1年たっても鮮明だ。愛知県からいわき市に引っ越して半年後の被災だっただけに、防災への意識はより高まったという。

 山脇さんが「視界が悪くて避難が難しかった」と振り返るように、昨年9月の豪雨は夜間に急激に降水量が増したことが住民の避難を妨げた。この経験から芽生えたのが早期避難の意識だ。今年8月には台風5号の接近に伴い「高齢者等避難」が、その後の台風7号の接近では線状降水帯の発生予測による「避難指示」が市内全域に相次いで出された。山脇さんはいずれも日中に市指定の避難所に移動した。「何かあってからでは遅いので」

 広報に改善点

 早期避難は移動に時間を要する高齢者や要配慮者にとっては特に重要になる。8月の台風接近などで市が避難所を開設したことについて、宮川沿いにある内郷宮一区長の国井信一さん(76)は「住民の安心につながった」と話す。

 ただ、市の広報には改善点があると考える。市は防災メールや交流サイト(SNS)などで避難情報を発したが、国井さんは「スマートフォンを使っていない高齢者もいるし、必ずしもテレビを見ているとは限らない」と語る。「車にスピーカーを乗せて地域を回ってもらえれば、高齢者には届きやすい。大変だとは思うが、工夫してくれるとうれしい」と提案した。

 空振り恐れず

 市が8月に発令した避難情報を巡り、内田広之市長は「結果的に空振りになったが、市として避難所の態勢を整え、早め早めの避難を呼びかける趣旨だった」と説明。一部で「何もなかったのに」などと非難の声もあったとしながらも「今後も教訓を生かして、命を優先に守るためにも(ためらわず)避難情報を出す」との考えだ。

 被害状況検証チームの統括を務めた東北大災害科学国際研究所の柴山明寛准教授は、気象庁が出す線状降水帯の予測を「まだ半分くらいの精度」とした上で「空振りを恐れずに(避難情報を)出すことは大事だ」と市の考えを尊重する。とはいえ、空振りが続くと「おおかみ少年のようになってしまう」とも指摘、「避難情報発令の根拠をその都度、住民に説明していくことも必要だ」と強調した。       

         ◇

 線状降水帯 次々と発生する発達した雨雲が列を成した積乱雲群。数時間にわたってほぼ同じ場所を通過、停滞することで線状に形成され、長さ50~300キロ程度、幅20~50キロ程度の強い降水を伴う。地球温暖化の影響で近年発生しやすくなっている。名称が付いたのは2021年6月だが、九州豪雨や西日本豪雨など、それ以前も被害は発生。台風だけでなく前線や太平洋高気圧なども要因となる。

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