【９月27日付編集日記】日本の顔

　わが身はさておき「４０歳を過ぎたら自分の顔に責任を持たなくてはならない」という。米国第１６代大統領リンカーンの警句である。歴史を築いた大政治家の眼力は鋭い。人間の顔は背負ってきた人生の映し鏡ということか

　▼当人は伝説の英雄とされたが、苦悩の人でもあった。うつ病の発作に悩まされ、次男と三男は早世した。奴隷制廃止への猛反発や南北戦争の惨状にも心を痛めた。彫りの深い肖像には、言い知れぬ苦闘が刻まれているのだろう

　▼過去最多の９人が立候補した自民党総裁選はきょう投開票される。選挙期間も過去最長で、福島の演説会は超満員となった。熱戦か乱戦か。派閥の重しが取れて、従来とは違う関心を呼んだのは確かである

　▼新しいかじ取り役は夕方に決まる。幸い皆さん４０歳以上なので、責任をたたえた顔になっているはずである。党利党略で選挙の顔を選ぶのではなく、「日本の顔」にふさわしい人が勝者になってほしい

　▼世に知られるリンカーンの名言は「人民の人民による人民のための政治」。わずか２分間の演説だった。わが国の新宰相はどんな遺産を残すだろうか。かの名演説の「人民」が「自民」に置き換わるようなら国民の顔は白けてしまう。