福島県内各地で確認されている北米原産の特定外来生物「ウチダザリガニ」を巡り、県内外の料理人たちが駆除団体とタッグを組み、地元食材として活用する取り組みが始まった。雑食性で繁殖力が強く、在来種の生態系への影響が懸念される“水辺の厄介者”だが、関係者は「地域活性化の資源になれば」と生まれ変わりを期待している。
「これがあのザリガニとはとても想像できない」。郡山市のイタリアンレストラン「catoe(カトウ)」では今月、ディナーイベントが開かれ、参加者が驚きの声を上げた。ウチダザリガニが高級フレンチやイタリアン、カレー、デザートなどに姿を変えた。
参加者からの反応はおおむね上々だ。郡山市の会社役員鈴木順子さん(53)は「ザリガニの名前とは全く別物。甲殻類の濃いうまみを堪能できるおいしい食材だった」と満足げ。爪の部分はカニ、身はエビのような味わいだったという。
調理したのは、同レストランを経営する加藤智樹シェフ(47)ら。交流を続ける東京都の料理人や野菜の生産者らでつくる団体「ローカリアンディッシュこおりやま」による活動の一環として企画。各地に眠る地元食材を掘り起こす中で、駆除されたウチダザリガニに着目した。
加藤シェフは「フランスでは高級食材で、おいしいことは知っていた。県内では邪魔者とされているが、地域の隠れた食材として駆除後に活用できればと思った」と話す。今後、猪苗代町内で駆除されたウチダザリガニを活用していく考えで、フランス名「エクルビス」にちなみ「猪苗代エクルビス」と名付け、情報発信して食材化を模索していく。
駆除に取り組む県も食材としての利用に理解を示す。担当者は「駆除団体に補助金を出すなどして、外来生物の防除を進めている段階。食材として付加価値を生み出し、駆除と両立した活動は歓迎したい」と期待した。
猪苗代町でウチダザリガニの駆除に当たる「特定外来生物ウチダザリガニ防除隊Gmens」のメンバー鈴木陽介さん(40)は「ウチダザリガニを持ち込んだり、放したりしたのは人間。在来種や生態系を守るために駆除は必要だが、命を無駄にしないためにも食材として提供し、流通させたい」と今後への意気込みを語った。(伊藤隆)
北塩原、西郷で確認
県自然保護課によると、ウチダザリガニは猪苗代町のほか、北塩原村などの裏磐梯エリア、西郷村の堀川ダムなどで繁殖が確認されている。生態系への影響は懸念されているが、農林水産業への顕著な被害は現在確認されていないという。ただ田んぼの水路で巣穴を掘るため、あぜなどが崩れる被害は出ている。
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ウチダザリガニ 北米原産の淡水性ザリガニ。成体は体長15~20センチ。攻撃的で環境への適応能力が高く、水生生物や水草を食べて成長する。日本には1909年と26~30年に米国から食料として持ち込まれ、各地で繁殖した。体の色は主に暗い緑色で、はさみの付け根に青白色の大きな模様がある。本県のほか北海道、栃木、千葉、長野、滋賀各県で分布が確認されている。2006年に特定外来生物に指定された。日本の侵略的外来種ワースト100の一つ。