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パレスチナを代表する女性監督の歴史ドラマ「東京国際映画祭」で上映「主人公は土地そのもの」

2025/11/01 23:56

  • 映画
映画『パレスチナ36』アンマリー・ジャシル監督 (C)ORICON NewS inc.

 「第38回東京国際映画祭」のコンペティション部門で10月30日、英国委任統治時代のパレスチナを舞台にした映画『パレスチナ36』が公式上映された。上映後には、脚本も手がけたアンマリー・ジャシル監督が登壇。「来日は初めてであり、私の作品が日本で上映されるのも初めて。実は母が日本で生まれていて、母の代わりにこうして日本に戻ってこられたことを、とてもうれしく思います」と笑顔を見せた。

【動画】映画『パレスチナ36』予告映像

 ジャシル監督は、16本以上の映画を脚本・監督・製作してきた、パレスチナを代表する女性監督。これまでの作品はカンヌ、ベルリン、ベネチアなどの国際映画祭でプレミア上映され、長編3作品すべてがアカデミー賞国際長編映画賞のパレスチナ代表に選出された。短編『Like Twenty Impossible』(2003年)は、アラブの短編として初めてカンヌ映画祭に正式出品され、米国アカデミー賞の最終候補にも選ばれた。

 本作は、1936年の英国委任統治下のパレスチナを舞台に、アラブ人たちがユダヤ人入植者や英国支配に反発して起こした民族主義的反乱を描いた歴史ドラマ。故郷の伝統的な暮らしを愛しながらも、エルサレムの政治的・社会的な緊張に巻き込まれていく青年ユスフを中心に、激動の時代が人々のアイデンティティにどのような影響を与えたのかを壮大なスケールで描く。英国高等弁務官役で、名優ジェレミー・アイアンズが出演。今年9月のトロント国際映画祭でワールドプレミアを迎え、単なる過去の再現ではなく、現在のパレスチナ問題をも照らし出す作品として注目を集めている。

■8年の構想、4度の中断を乗り越えて完成

 企画の始動は約8年前にさかのぼる。脚本執筆とリサーチに時間を要したうえ、パレスチナには映画制作のための基金や助成金が存在しないため、資金調達にも長い年月を費やしたという。「多くの協力者の力を得てようやく実現しました。エンドクレジットが長いのも、その証なんです」とジャシル監督は語る。

 撮影前の準備も多岐にわたった。「まずは映画の舞台となる農村を探すことから始めました。時代劇ですから、当時の姿を忠実に再現する必要がありました。1930年代に栽培されていたたばこの畑を復元し、衣装も当時の素材とデザインにこだわりました。英国側の戦車や軍用車両の調達にも時間がかかりました」と振り返る。

 2023年10月14日から撮影に入る予定だった。しかし、1週間前の10月7日、イスラム組織ハマスがイスラエル南部を襲撃。この攻撃を受けて、イスラエルはパレスチナ・ガザ地区への軍事攻勢を開始した。

 「私たちはすべての準備を整えていたのですが、状況が一変しました。パレスチナでの撮影は不可能になり、ヨルダンで撮影することになりました」。その後、情勢が一時的に落ち着いた際にパレスチナでの撮影を再開したが、「撮影中断は4度に及びました。ご存じの通り、この2年間、状況が改善するどころか悪化の一途をたどりました」と静かに語った。

■外側の視点ではなく、私たち自身の物語を

 上映後のQ&Aでは、観客から「20世紀初頭のアラビア情勢を描いた映画として有名な『アラビアのロレンス』(1962年)とのつながり」についての質問が寄せられ、ジャシル監督は次のように応じた。

 「これまで“外側の視点”から語られてきました。でも、私たち自身の物語を、私たちの言葉で語ることが重要だと思ったのです。英国による介入が108年前に始まり、当時の出来事は私たちの国の歴史の中で非常に大きな転換点でした。そこをパレスチナ側の視点から描きたかったのです」

 本作は、村の若者ユスフのほかにも、都会に住む恋人たち、父と息子、母と娘、政治家ら――複数の人物が絡み合う群像劇として展開する。「反乱がどのように生まれたのかを、より包括的に描きたかった。その中でも中心にあるのは“土地”です。何よりも、この映画の主人公はパレスチナという土地そのものだと思っています」と語った。

 また、劇中の音楽にも象徴的なモチーフがあると、ジャシル監督。「バグパイプは今では英国、スコットランドの伝統楽器とされていますが、もともとはアラブ発祥。エンドクレジットでその音を使うことで、“奪われた文化を取り戻す”という思いを込めました」と明かしていた。

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