今回は特に全国で猛威を振るっている新型コロナウイルス感染症の治療について、厚生労働省、国立感染症研究所、日本感染症学会からの記事を参考にしてお話します。
1.抗ウイルス薬等の対象と開始のタイミング
新型コロナウイルス感染では、発症後数日は体内でウイルスの増殖が盛んに起きているため、その時期には抗ウイルス薬または中和抗体薬が使用されます。発症後7日前後からは宿主免疫による炎症反応が主病態であると考えられているため、悪化がみられる発症7日前後以降の中等症・重症の病態では抗炎症薬の投与が重要となります。
2.オミクロン株の治療薬の有効性は?
新型コロナウイルスの治療薬としてさまざまな治療薬が開発されています。これまでに承認された薬を役割に応じて分けると以下の3種類です。
A.ウイルスの増殖を抑える薬:モルヌピラビル、レムデシビル B.ウイルスの侵入を防ぐ薬(中和抗体薬):カシリビマブ・イムデビマブ、ソトロビマブ C.過剰な免疫反応や炎症を抑える薬:デキサメタゾン、バリシチニブ
このうち、ウイルスの増殖を抑えるレムデシビルや唯一の経口薬モルヌピラビル、過剰な免疫反応や炎症を抑えるデキサメタゾン、バリシチニブはオミクロン感染に対する治療にも効果が期待できます。 しかしウイルス表面に結合し、ウイルスの侵入を阻止する中和抗体医薬は、その標的部位に変異があると結合しにくくなってしまいます。カシリビマブ・イムデビマブは変異株であるオミクロン株を中和(結合)しにくく、効果が落ちるため治療には推奨されていません。 一方、ソトロビマブはオミクロン株に対する活性は、ほかの株より低いながら保っており、アメリカの新型コロナウイルス感染症治療ガイドラインにも、オミクロン株にも対応可能な治療薬として掲載されています。
3.軽症例
特別な治療をしなくても、経過観察のみで自然に軽快することが多いですが、発症後2週目までに急速に病状が進行することがあります。その場合は低酸素血症の進行としてあらわれます。重症化リスクのある場合には、モルヌピラビル内服の適応があります。多くの場合、宿泊施設や自宅で療養、健康観察を行いますが、体調不良となった場合には速やかに医療機関を受診することが勧められます。 また、軽症でも発症前から感染性がありますので、人との接触はできるだけ避けること、同居家族がいる場合には生活空間を分けること、マスク着用、手洗いの励行が勧められます。
4.中等度例
中等度の場合には、入院して治療を行うことが原則です。レムデシビルなどの治療を行うことに加え、さらなる病状の悪化に対して酸素療法などの治療を早期に行うため入院します。入院に際しては、隔離された方の不安にも対処しなければなりません。
【中等度I 呼吸不全なし】
安静で十分な栄養摂取が重要です。また、脱水に注意し、水分を過不足なく摂取することも大切です。血圧、呼吸、熱、脈拍などのバイタルサイン測定に加え、酸素飽和度を1日3回測定します。低酸素血症の症状があっても呼吸困難を訴えない方もいるので注意が必要です。重症化リスクがある方やワクチン接種をしていない方はやはり病状の進行に注意が必要です。血液検査や肺炎の画像検査で細菌感染が合併している場合には抗生物質の投与も開始となります。
【中等度Ⅱ 呼吸不全あり】
呼吸不全のため、酸素投与が必要になります。必要に応じて、人工呼吸器や体外式膜型人工肺(ECMO)の医療体制が整っている施設への転院を考慮することが大切になります。肺の浸潤陰影が拡大進行して急速に悪化する場合があります。このような場合にはステロイド剤が使用されます。また、レムデシビルなども使用されます。その他の合併症、例えば血栓症や細菌性肺炎、心筋症、急性腎不全、敗血症、消化管出血の併発にも注意が必要です。
5.重症例
重症例は肺炎による呼吸不全を起こします。急速な呼吸状態の悪化に備えて、呼吸器管理の幅広い知識、経験を持つ救急専門医、集中治療専門医、呼吸器専門医らがチームを作成して、人工呼吸器や専門的な監視体制が必要になります。 また、さらに重症になった場合にはECMOの使用を慎重に考慮して、治療に当たります。医師、看護師、臨床工学士など多くの人材と機材が必要になり、莫大な労力と時間が必要になります。また、前述したような全身合併症併発の頻度も高くなり、命の危険がさらに高まります。
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次回も新型コロナウイルス感染症についてお話します。
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