家族3人の連携
半世紀以上、伊達市梁川町の変わらぬ場所で明かりをともし続け、今日も客を温かく迎える。昼時になると、働き盛りの会社員や地元住民などが続々とのれんをくぐる。
店を切り盛りするのは、店主の佐藤雄治さん(72)と息子の圭司さん(50)、雄治さんの姉の中野真知子さん(74)の3人。定食や丼もの、麺類などメニューが豊富なため、雄治さんがてきぱきと腕を振るい、家族ならではの連携で次々と料理を仕上げる。
「暑い日はスタミナが付くご飯もの。寒い日は温かい麺類が多いかな」。接客担当の真知子さんは鋭い観察力と経験を生かし、その日の天候や店前の広瀬大通りの交通量から、注文が集中しそうなメニュー、客入り、混み合いそうな時間帯を分析。圭司さんは出前の配達を担い、注文が入ると昔ながらの"おかもち"を持って町内を駆け巡る。
雄治さんが中学生の頃、現在の場所で両親がラーメン屋を開いたことが店の始まり。真知子さんは「ラーメン屋の前は回転焼き。夏場はかき氷、冬場はおでんも作っていた」と、両親との思い出をしみじみと語る。
雄治さんは18歳で店を手伝うようになり、後に引き継いだ。定食や丼ものは雄治さんが考えて提供を始め「どんどんメニューが増えてしまった」と目を細める。ファンが多いという「スタミナ」シリーズは定食だけでなく、うどん、そば、ラーメンにも展開している。「子どもからお年寄りまでみんなが食べやすいように」と豚モツをやわらかく仕込み、野菜をたっぷり使って甘辛いみそで炒める。
季節限定の「サマーラーメン」は客との会話から生まれた。冷やしたしょうゆラーメンのスープに冷やし中華の具材である細切りキュウリ、錦糸卵、ハムなどをのせる。夏の最高気温が全国でも上位にランクインすることも多い"暑い町・梁川"にある店だからこそ、生まれた一品なのかもしれない。
店は午前11時15分の開店から午後8時の閉店までの「通し営業」。昼時のピーク時間を過ぎても、客がふらっと足を運ぶ。「ここなら昼を過ぎても開いているから、つい」と地元の60代男性は笑う。
町は変わっても
店は町の移ろいとともに歩んできた。現在の大通りはかつて田んぼと畑が広がっていたが、1986年の8・5水害で甚大な被害を受けたほかの商店が移ってくるなどしたため拡張された。2019年には東日本台風が町を襲った。幸いにも店に被害はなかったが、姉弟は顔を見合わせて「町もどんどん変わっていくね」とつぶやく。
今春100年を超える歴史に幕を下ろした近くの旧梁川高は真知子さんの母校。「先生が出前を取ってくれたり、生徒が店に食べに来てたりと、にぎわっていたね」。50年以上、厨房(ちゅうぼう)に立ち続けている雄治さんは懐かしむ。
「おいしいものを作ってお客さんに喜んで帰ってもらうことだけを考えている」。言葉数は多くないが、雄治さんのその強い思いが今も昔も変わらず店を支えている。「どうもね、ありがとうございます」―。今日も店内に明るい声が響き、訪れる客の胃袋をつかんで引き込む。(高橋由佳)
半世紀以上、町の移ろいとともに歩んできた「お食事処 さとう」。昼から夜まで「通し営業」しており、ついついのれんをくぐりたくなる
【住所】伊達市梁川町栄町32
【電話】024・577・0611
【営業時間】午前11時15分~午後8時
【定休日】日曜日
【主なメニュー】
▽特製焼肉定食=1000円
▽焼肉定食=950円
▽スタミナ定食=850円
▽カツ丼=800円
▽チキン丼=800円
▽中華丼=750円
▽チャーハン=650円
▽カレーライス=650円
▽餃子=300円
▽かけうどん・そば=500円
▽ラーメン=550円
▽スタミナラーメン=850円
▽タンタンメン(激辛)=700円
▽五目焼きそば=800円
▽冷やし中華(季節限定)=750円
▽サマーラーメン(季節限定)=750円
ボリューム満点の特製焼肉定食(手前)やカツ丼(右奥)。季節限定の「サマーラーメン」は冷やし中華と並ぶ人気メニュー
休みも「食」ばかり
雄治さんの休日はアクティブ。朝早くから山菜やタラノメ、タケノコを採りに山へ出かけたり、海や川で釣りをしたりしてリフレッシュする。「今年の収穫時期は例年より1カ月くらい早かったな」と丁寧に塩漬けしたタケノコを手に取って見つめる。収穫した食材は定食などの具材になることも。先日はシジミ採りに出かけた。週に1度の貴重な休みも「結局食のことを考えてしまう」と穏やかな笑みを浮かべる。
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NHKラジオ第1「ふくどん!」で毎週木曜に連携企画
まち食堂物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『ふくどん!』(休止の場合あり)のコーナー「どんどんめし」で紹介される予定です。