読書や本との付き合い方を調査する後編。今回は、本を中心にしたイベントやまちづくりを紹介します。
古本誰でも出店
いわき市では2017年から年に2回のペースで「いわき街なか一箱古本市」を開催している。これは、誰でも出店できるフリーマーケット形式の古本市で、1日だけの「本屋さんごっこ」を体験できるイベントだ。参加者はテーマを設け、店名を付けて1.8メートル四方のスペースを思い思いに飾って出店する。
実行委員で移動書店リードブックス店主の高木徹さん(50)に開催のきっかけを聞くと「書店と図書館以外で、本との接点をつくる方法を考えていた時に、東京で開催している『一箱古本市』を知りました。本を介して、出店者と来場者の双方向だけでなく、出店者同士、来場者同士など多方向に交流の輪を広げられる点も大きな魅力だと感じました」という。
これまでに18回開催し、フリーマーケット形式の会場では密度の高いコミュニケーションが生まれている。「著者や作品について一箱店主と来場者が話していると、通りがかった方も話に加わり、思わぬ盛り上がりになっている場面が、毎回そこかしこで見受けられます」「ある出店者の『けん玉チャレンジ』という企画がきっかけで、けん玉の魅力にはまったお子さんが、毎回その腕前を披露しに来てくれるようになりました」といったほほ笑ましいエピソードも。
書店の閉店が相次ぐ現状について高木さんは「大量生産、大量消費、大衆の時代が終わりを告げたのだと感じます。その証拠に出版物の売り上げ推移を見てみると、雑誌の売れ行きは大きく落ち込んでいますが、書籍のそれは思ったほど大きくありません。ここに希望を見いだして、さまざまな方策を講じられるのではないかと考えています」と、これからを模索する。
公園に集って
一方、郡山市では「ブックナイトマーケット」というイベントが開かれている。起案者の佐藤哲也さん(49)が「本を売るイベントではない」と話すように、ここでは来場者も本を持参し、出展者が持ち寄った本と「交換」する。これまで、市内の公園や神社などで開催してきた。
始まりは、本棚に眠る本をどうにかしたいという佐藤さんの個人的な悩みだった。せっかく買った本を捨てるのは忍びないし、数十円で買い取りに出すのも気が進まない。「本の好きな人たちは何を読んでいるのだろう? それを自分の本と交換できたら…」そんな思いから企画が動き出した。
次に「本を交換する場所」はどこにするか。佐藤さんは仕事でまちづくりに携わる機会が多く、郡山市は緑地や公園が多いことに着目していた。
こうして「家に眠る本」という個人の課題と、「緑地や公園の有効活用」という公共の課題、両方の解消につながるイベントが誕生した。本は世代を問わないアイテムなので、子どもから高齢者まで誰もが楽しめるイベントが実現した。
会場では本の交換を巡るコミュニケーションが自然と発生する。開催後は「友達が増えた、持参した本の思い出を伝えたら共感してもらえてうれしかったなど、満足度がすごく高い」と佐藤さんは手応えを感じている。今後も場所を変えながら定期的に開催する予定だという。
郡山発全国へ
郡山発のこの仕組みは全国に「のれん分け」され、京都府や埼玉県でも開催された。
書店が減っている状況について佐藤さんにも尋ねると「書店がないと、店に並ぶたくさんの本の中から何げなく手に取って読む、そんな『偶然の出合い』がなくなってしまう。インターネットは自分が興味を持って検索した情報しか集まらない。街の文化や暮らしを豊かにするのは本屋さんだと思う」と店舗ならではの魅力を話す。
街の中に本がある環境がいつまでも続くよう、まずは出合いを求めて近くの書店に足を運んでみたい。(佐藤香)