電力会社などを装って分電盤の点検を持ちかけ、交換工事を迫る「点検商法」に関する相談が福島県内で急増している。県消費生活センターによると、7月から相談が相次ぎ、8月末までに15件が寄せられた。分電盤の点検業者を名乗る人物が「交換しないと漏電火災が起きる可能性がある」などと不安をあおり、高額な交換工事を契約させる手口だ。昨年から全国で広がっている点検商法の相談が本県でも出始めたことを受け、センターは「知らない業者から突然、電話が来た場合は慎重に対応してほしい」と注意を呼びかけている。
県消費生活センターによると、「無料で分電盤を点検する」「電力会社の委託を受けて点検に行く」といった電話がかかってくるケースが多い。承諾すると、訪ねてきた業者が点検し「古くなっていて発火の恐れがある」などと迫り、分電盤の交換を要求するという。
相談者の内訳は地域別で福島市14件、伊達市1件と県北地方に集中。約7割が70歳以上だった。このほか今月に入り、会津などでも同様の事例が確認された。
相談した70代女性は自宅を訪れた人物から点検後、「何年前に設置したか」と問われ「30年ほど前」と答えた。作業員は「15年で交換が必要。このままだと漏電の可能性もあり、危険だ」とその場で10万円以上の交換工事の契約を持ちかけたという。女性はいったん契約したが、高額なのを不審に思ってセンターに問い合わせ、工事前にクーリングオフを利用して解約した。
必ず身分証確認
点検業務を担う東北電力ネットワークによると、家庭の電気設備は電力会社などが4年ごとに法定点検をするが、点検後その場では設備交換などの契約を求めていない。点検日時は原則書面で通知しており、担当者は「委託している作業員は必ず身分証(調査員証)を携帯している。正規の業者かどうかは身分証で見分けてほしい」と話した。
点検商法ではその場で見積もりが示され、高額な費用を請求される手口がほとんどだ。センターの担当者は「まずは電話で安易に点検を承諾しないでほしい。支払いをする前に周囲の人に相談したり、複数の業者から見積もりを取ったりするなど、落ち着いて行動してほしい」と訴えている。
前年度同期比8倍
国民生活センターによると、分電盤の点検商法は昨年、南関東から広まりだした。全国の相談件数は昨年度の1289件に対し、本年度は4~8月の5カ月で1750件に上り、既に昨年度を上回った。前年度同期(201件)と比ベると8倍を超えており、全国で広がりを見せている。
住宅地の高齢者標的か
消費者契約に詳しい福島大の中里真行政政策学類准教授は「分電盤に限らず、点検商法を行う悪質な業者は消費者の知識不足や不安につけ込み、言葉巧みに契約まで誘導する」と語る。
商材となった分電盤について「消費者の関心が薄く、災害や火災と関連付けやすい」と指摘。「近隣への延焼の危険から火災への不安が大きくなりやすい住宅密集地に住む高齢者を狙っている可能性がある。投資や副業の詐欺も含め手口は近年、巧妙になっている。当事者意識を持ち、警戒してほしい」と警鐘を鳴らす。