新潟・福島豪雨で橋が流失するなど被害を受けたJR只見線が2022年10月に全線再開通してから、1日で3年となる。奥会津に元気を注ぐ動脈として「日本一の地方創生路線」への期待を背負う只見線。一人でも多くの乗客を招くため、沿線住民、観光関係者たちの挑戦は続く。
「これからが正念場だ。金山町に来て良かった、また来たいと思ってもらえる流れをつくりたい」。4月に金山町の観光プロデューサーに就任した横山伊久雄さん(64)は、元JR東日本の職員としての経験を生かし、観光誘客策を練っている。
横山さんは同町出身で、高校卒業後に国鉄に入社。会津宮下駅や会津若松駅などで勤務したほか、旅行商品の企画、販売も長年担った。2022年の只見線全線再開時も旅行商品をつくっており、再開日も担当者として会津川口駅にいた。「本当に再開できたのだとうれしかった」と振り返る。
観光誘客に力を入れる同町から横山さんに観光プロデューサー就任の声がかかり、横山さんは定年を1年前に退職して地元に戻った。「地元出身者として貢献したいと思い仕事を受けた」と思いを語る。
横山さんはこの半年間で乗客層を分析したり、観光地の魅力を見直したりして、誘客策の材料を集めてきた。同町では団体を受け入れることが厳しいとして、その環境整備も課題の一つだと考え、解決策を模索していくつもりだ。
「これまでの3年間は只見線再開の『ブーム』のようなところがあった。この流れを一過性で終わらせるのではなく、未来に受け継がれる遺産を構築していくことが大切だ」と横山さん。「来年のふくしまデスティネーションキャンペーン(DC)をきっかけに、観光客の流れをつくりたい」と語る様子は使命感に満ちていた。
混雑回避「プチ乗り」提案
只見町のJR只見駅前で旅館「只見荘」を営む目黒文雄さん(59)は「只見線が復旧する前よりも、訪れる人は断然増えた。工夫しながらローカル線の魅力を伝えたい」と力を込める。
只見線は運行本数が少ないという課題がある。また、観光シーズンと平日とでは、列車内の混み具合に差がある。目黒さんは、例えば関東圏から車で来て宿泊する観光客には、只見―会津川口駅間の「プチ乗り」を勧めている。この方法なら混雑する時間帯を回避し、往復2時間ほどで車窓からの風景を満喫できるという。
「只見線を愛する人は多く、その期待に応える宿でありたい。復旧から3年で注目されている今だからこそ、地元側からアイデアを出していきたい」と前を見据えている。
1日乗客数減少傾向
JR東日本が9月に公表した昨年度の1キロ当たりの1日平均乗客数(輸送密度)では、只見線会津川口―只見間は69人で、前年度に比べて34人減少した。同線は4区間でいずれも輸送密度が前年度より落ち込む結果となった。
全線再開3年を契機に路線を盛り上げようと、県は1日、特別列車「キハ110系レトロラッピング車両」を運行する。車内では全線再開までの歩みをテーマにしたフォトパネルの展示や、乗客に乗車記念証のプレゼントなどを企画。土産にはあわまんじゅうが贈られるなど、地元の名産のPRにもつなげたい考えだ。