• X
  • facebook
  • line

【10月25日付社説】首相所信表明/合意形成への手腕試される

2025/10/25 08:00

 少数与党下の政権運営で、標榜(ひょうぼう)する政策を具現化するのは容易ではない。いかにして与野党の理解を得て合意形成を図るか、その手腕や力量が問われている。

 高市早苗首相が所信表明演説を行った。憲政史上初の女性首相は「暮らしや未来への不安を希望に変え、強い経済をつくる。絶対に諦めない決意をもって国家国民のため果敢に働く」と強調した。

 首相は強い経済の実現に向け、「責任ある積極財政」を基本に「所得を増やし、消費マインドを改善し、事業収益が上がり、税収を増加させることを目指す」と語った。物価高の克服には賃上げの実現が前提になる。前政権でも春闘での賃上げ、過去最大の最低賃金引き上げを実現したが、物価上昇の勢いはそれを上回る。

 大企業に比べ、中小零細企業は賃上げの動きが鈍い。地方では人件費の捻出や人材確保に苦しみ、事業継続そのものが危ぶまれている企業もある。首相は、米国の関税措置の影響を受ける事業者、経営難に直面する医療機関や介護施設を支援する意向を示した。業種や事業規模に限らず、全ての働き手が賃金上昇を実感できる具体的な処方箋を早急に示してほしい。

 首相は、日米同盟を基軸に「世界の真ん中で咲き誇る日本外交を取り戻す」と宣言した。防衛費については2027年度に関連経費と合わせ、国内総生産(GDP)比2%に増額する目標を2年前倒しして本年度に達成するという。

 財源確保は法人、所得、たばこの3税の増税が見込まれるが、所得税増税の開始時期決定は先送りされている。巨額の防衛費をどう賄えるか見通せない中、トランプ政権はGDP比率を3・5%まで引き上げることを求めている。

 防衛力の抜本的な強化を掲げるのであれば、まずはその方針や財源について国民の理解を得ることが重要だ。抑止力だけでなく、外交力の向上にも注力すべきだ。

 「地方創生」を掲げた前政権の方針を受け継ぎ、首相は自治体向けの重点支援地方交付金の拡充などを表明した。地域を越えたビジネス展開を図る中堅企業を支援し、地方に大規模な投資を呼び込む産業戦略の推進などを示した。

 若者や女性の流出に歯止めがかからない地方では、これまでの延長線上の施策では不十分だ。新たな施策の展開を求めたい。

 首相は政権の基本方針と矛盾しない限り「各党からの政策提案を受け、柔軟に真摯(しんし)に議論する」と語った。排他的な姿勢を慎んでこそ、政治の安定につながることを首相は肝に銘じてもらいたい。

この記事をSNSで伝える:

  • X
  • facebook
  • line